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保育園からの帰り道 ④

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 お気に入りのくまの人形と一緒に眠る千景の顔を見つつ、瑞稀は嵐のような一日がやっと終わったことを実感する。
 晴人と同じ、千景の少しコシのある髪を撫でると、眠っているはずの千景が少し微笑んだように見えた。
 千景はわがままを言わない。
 それが時折心配になる。

この小さな体で、いったいどれだけ我慢しているんだろう?
 
 今日、千景が言った言葉が頭をよぎる。

『ぼくもいつかお兄ちゃんになれる?』

『僕にパパがいないから?』

僕は、僕自身が自分の進む道を決めた。
だけど千景はそうじゃない。
本当はずっとお兄ちゃんになりたくて、今まで会ったことのないパパに会いたいはずだ。

 瑞稀は自分が小さい頃、父親に会いたかったのことを思い出す。

僕の父さんは事故で死んでしまって、決して会うことはできなかったけど、千景は違う。
千景の父親は近くにいて、会いたいと思えば会える。
でも千景が父親と会えないのは、僕のせいだ。
もし千景の父親が晴人さんだと知れたら、きっと晴人さんも旦那様も奥様も千景を連れて行ってしまう。
千景と離れ離れになってしまう。
そんなことなんて、考えられない!

 今日、晴人が結婚していなくて、実家の病院を継いでいなことを知るまでは、瑞稀と千景自分たちが晴人の前に現れないことが、重要だと思っていた。
 でも今は違う。
 本当は結婚もせず病院も継いでおらず、副社長秘書をしている。
 瑞稀自分だけが、千景がいて一緒にられることが、晴人に対して申し訳なく思ってしまう。

晴人さんは、こんなに可愛い我が子がいると知ったら、どんな気持ちになるんだろう?
ただ一つ確実なことは、僕を許せないことだろう。
ここまで大きく成長する時期を共に過ごせなかったことを、悔しく思うだろう。
それに千景は『本当はパパがいて、僕のせいで今まで会えなかった』ってことを知ったら、どう思うだろう?
母親に隠し事をされ傷つくだろうな。
愛する我が子を傷つける母親なんて…

 もう一度髪を撫でると、千景はもうすっかり熟睡していて、規則正し寝息をたてている。
 瑞稀は千景に大きな隠し事をしている自分が、情けなかった。

謝ってもどうすることはできないけど…。

「勝手なママで、ごめんね…」

 千景の額にキスをすると、瑞稀は部屋から出て扉を閉めた。
 先ほどまで降っていた雨が、雪に変わっていた。
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