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最後のデート ①
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晴人と話した翌日の出勤時。
瑞稀はオーナーに、晴人が『今、子供は考えていない』と言ったことを話した。
オーナーは「俺が話をつける」と言い、すぐにでも飛び出しそうになったのを瑞稀が止め、知らないことにしてほしいと念押しをした。
そしてオーナーにだけ、何も知らないことにしてくださいと頼み込んだ。
そして今日は晴人と瑞稀の仕事が休みの金曜日。
「瑞稀おはよ」
ベッドで眠る瑞稀の額に晴人がキスをする。
「おはようございます」
まだ眠気まなこの瑞稀は、ぼやけて見える晴人に『起こして』と手を伸ばす。
「あはは。今日の瑞稀は甘えただな」
晴人は瑞稀の体を起こした。
時計の針は9時過ぎ。
昨晩バーは忙しく、ずっと動きっぱなしだった。
オーナーは瑞稀の体を心配して休ませようとしたが、瑞稀はそれを断っていた。
迷惑にならない限り、瑞稀は自分を受け入れてくれたオーナーに、仲間に恩返しがしたかったし、バーテンダーという仕事を全うしたかった。
「瑞稀、今日はどうしたい?」
晴人は瑞稀の隣に座り、愛おしそうに頭を撫でる。
「朝ごはん食べたら、お弁当持って、この前行った公園に行きませんか?その帰りにスーパーに寄って晩御飯の材料と、映画鑑賞用のお菓子セットも買うんです。一緒に料理して映画を観て…。僕はそれがしたいです」
瑞稀は晴人を見上げる。
「今日は随分たくさんしたいことがあるんだな」
「もう少し減らしたほうがいいですか?」
予定を入れ過ぎたか…と瑞稀は反省する。
「そんなことない。素敵なスケジュールだと思うよ。俺は瑞稀のしたいって思ったことを、全部していきたいんだ。今日も、これからも、ずっと…。それに、たくさんわがままも言ってほしい。瑞稀はいつも、遠慮しすぎだぞ」
優しく晴人に抱きしめられるのが心地よかった。
朝の支度をすると、晴人が作ってくれた和食メインの朝食を2人で食べた。
先日の外食の味付けを参考に、晴人は出汁をしっかりとり、調味料は少なめな料理を作ってくれるようになった。
それまではあまり食欲がなかった瑞稀だが、味付けを変えてくれるようになって、食欲が少し戻ってきて、顔色も良くなってくる。
食後は公園に持っていくホットサンドを作った。
具材は定番の『たまごときゅうり』、瑞稀が好きな『えびアボカド』、晴人の好きな『ほうれん草とベーコン』、そして二人とも大好きな『トマトととろけるチーズ』
ホットサンドと果物をお弁当用のかごバスケットに詰め、コーヒーを水筒に入れる。
車で公園まで行っている間、瑞稀は晴人と出会った時の昔話を楽しそうに話していた。
話せば話すほど、晴人に対する気持ちが溢れてくる。
同時に、晴人に出会えたことが奇跡に思えた。
広い公園内を手を繋ぎ散歩する。
公園内を楽しそうに駆け回るたくさんの子供たち。
妊娠が分かり晴人との別れを決断する前の瑞稀であれば、元気な子供の姿を見ると、心が苦しくて悲しくなったていたが、今日はもうそんな気持ちはなく、どの子も元気に大きくなってほしいと思った。
二人で作った弁当は、晴人がプロポーズしてくれた場所で食べた。
気持ちの良い風が瑞稀の頬を撫でる。
瑞稀が全種類のホットサンドを食べた時は、晴人は目を丸くして、そして嬉しそうに微笑んだ。
デザートを食べた後、瑞稀は眠気に襲われ、うつらうつらと船を漕ぎ出す。
晴人が瑞稀の体を傾け膝枕をすると、いつもは照れて膝枕されず、すぐに体を起こしてしまう瑞稀が今日は素直に膝枕をされ、瞳を閉じる。
まだ太陽の日差しは厳しいが、真夏のようにヒリヒリと刺すような日差しはない。
秋に向かう、少し憂いを含んだ日差し。
瑞稀がそっと瞳を開くと、広く澄んだ空に鱗雲が広がっている。
「あ…鱗雲…」
瑞稀がつぶやくと、
「本当だ。もう、雲まで秋になってきたな」
晴人も空を見上げた。
晴人と再会して2回目の夏が過ぎ、空気や空までもが2回目の秋になろうとしていた。
瑞稀はオーナーに、晴人が『今、子供は考えていない』と言ったことを話した。
オーナーは「俺が話をつける」と言い、すぐにでも飛び出しそうになったのを瑞稀が止め、知らないことにしてほしいと念押しをした。
そしてオーナーにだけ、何も知らないことにしてくださいと頼み込んだ。
そして今日は晴人と瑞稀の仕事が休みの金曜日。
「瑞稀おはよ」
ベッドで眠る瑞稀の額に晴人がキスをする。
「おはようございます」
まだ眠気まなこの瑞稀は、ぼやけて見える晴人に『起こして』と手を伸ばす。
「あはは。今日の瑞稀は甘えただな」
晴人は瑞稀の体を起こした。
時計の針は9時過ぎ。
昨晩バーは忙しく、ずっと動きっぱなしだった。
オーナーは瑞稀の体を心配して休ませようとしたが、瑞稀はそれを断っていた。
迷惑にならない限り、瑞稀は自分を受け入れてくれたオーナーに、仲間に恩返しがしたかったし、バーテンダーという仕事を全うしたかった。
「瑞稀、今日はどうしたい?」
晴人は瑞稀の隣に座り、愛おしそうに頭を撫でる。
「朝ごはん食べたら、お弁当持って、この前行った公園に行きませんか?その帰りにスーパーに寄って晩御飯の材料と、映画鑑賞用のお菓子セットも買うんです。一緒に料理して映画を観て…。僕はそれがしたいです」
瑞稀は晴人を見上げる。
「今日は随分たくさんしたいことがあるんだな」
「もう少し減らしたほうがいいですか?」
予定を入れ過ぎたか…と瑞稀は反省する。
「そんなことない。素敵なスケジュールだと思うよ。俺は瑞稀のしたいって思ったことを、全部していきたいんだ。今日も、これからも、ずっと…。それに、たくさんわがままも言ってほしい。瑞稀はいつも、遠慮しすぎだぞ」
優しく晴人に抱きしめられるのが心地よかった。
朝の支度をすると、晴人が作ってくれた和食メインの朝食を2人で食べた。
先日の外食の味付けを参考に、晴人は出汁をしっかりとり、調味料は少なめな料理を作ってくれるようになった。
それまではあまり食欲がなかった瑞稀だが、味付けを変えてくれるようになって、食欲が少し戻ってきて、顔色も良くなってくる。
食後は公園に持っていくホットサンドを作った。
具材は定番の『たまごときゅうり』、瑞稀が好きな『えびアボカド』、晴人の好きな『ほうれん草とベーコン』、そして二人とも大好きな『トマトととろけるチーズ』
ホットサンドと果物をお弁当用のかごバスケットに詰め、コーヒーを水筒に入れる。
車で公園まで行っている間、瑞稀は晴人と出会った時の昔話を楽しそうに話していた。
話せば話すほど、晴人に対する気持ちが溢れてくる。
同時に、晴人に出会えたことが奇跡に思えた。
広い公園内を手を繋ぎ散歩する。
公園内を楽しそうに駆け回るたくさんの子供たち。
妊娠が分かり晴人との別れを決断する前の瑞稀であれば、元気な子供の姿を見ると、心が苦しくて悲しくなったていたが、今日はもうそんな気持ちはなく、どの子も元気に大きくなってほしいと思った。
二人で作った弁当は、晴人がプロポーズしてくれた場所で食べた。
気持ちの良い風が瑞稀の頬を撫でる。
瑞稀が全種類のホットサンドを食べた時は、晴人は目を丸くして、そして嬉しそうに微笑んだ。
デザートを食べた後、瑞稀は眠気に襲われ、うつらうつらと船を漕ぎ出す。
晴人が瑞稀の体を傾け膝枕をすると、いつもは照れて膝枕されず、すぐに体を起こしてしまう瑞稀が今日は素直に膝枕をされ、瞳を閉じる。
まだ太陽の日差しは厳しいが、真夏のようにヒリヒリと刺すような日差しはない。
秋に向かう、少し憂いを含んだ日差し。
瑞稀がそっと瞳を開くと、広く澄んだ空に鱗雲が広がっている。
「あ…鱗雲…」
瑞稀がつぶやくと、
「本当だ。もう、雲まで秋になってきたな」
晴人も空を見上げた。
晴人と再会して2回目の夏が過ぎ、空気や空までもが2回目の秋になろうとしていた。
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