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帰り道 ①
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「瑞稀!!」
バーはまだ営業し始めたばかりの夕暮れ時。
街頭の光が灯るか灯らないか…、そんな時間。
いつもの待ち合わせ場所で待っていた瑞稀のそばに、晴人が駆けてきた。
「体調、よくないのか?」
心配そうに、晴人は瑞稀を見る。
「いえ、体調はいいのですが、今日は早く上がらせてもらったんです」
瑞稀は笑顔で駆けてきた晴人を迎えた。
「何かあった?」
「いえ…。今日は僕がいなくてもお店が回るってことだったんです」
これは正確には嘘ではない。
本当は『瑞稀が抜けても、なんとかやっていける』と言うことだった。
オーナーは晴人との話し合いは早い方が良いと、瑞稀を帰らせたのだ。
「ならよかった。瑞稀から仕事をあがったってメッセージきた時は、何かあったんじゃないかって心配したんだぞ」
晴人は瑞稀に右手を差し出す。
「詳しく書かなくてすみません」
そう言いながら、瑞稀は晴人と手を繋ぐ。
「俺もさっき帰ってきたところだから、夕飯何もできてなくて…。もし瑞稀の体調がよかったら、何か食べて…帰る?」
瑞稀の体調を心配しながら晴人が言う。
本当は早く帰って、赤ちゃんの話したいけど…。
ちらっと見た晴人の顔が、あまりにも出かけることへの期待で、キラキラしていたので、
「はい。食べて帰りたいです」
瑞稀はそう答えた。
「本当に!?体調は大丈夫なのか?」
ワクワクが晴人から滲み出ている。
晴人さん、可愛い。
「はい、大丈夫です」
瑞稀は繋いでいた手を解き、晴人の腕に自分の腕を絡ませ、体を密着させる。
「じゃあ、瑞稀は何が食べたい?」
「えーっとですね…。しゃぶしゃぶが食べたいです」
「しゃぶしゃぶ?外はまだ暑いのに?」
日が落ちると少し寒くなってきたが、半袖でも過ごせる気温。
そんな時に、しゃぶしゃぶなんて思いもつかなかったような晴人だったが、
「冷房の効いた部屋で食べるお鍋は美味しいじゃないですか。ほら、冬に暖房の効いた部屋で食べるアイスみたいです」
えへへと瑞稀が笑う。
晴人が近くにいるだけで、さっきまで頭の中を占めていた悩みがなくなっていく。
晴人との時間だけが、瑞稀を癒していく。
このまま時が止まればいいのに…。
「じゃあ、この近くで美味しい鍋料理の店は…」
スマホを取り出し、晴人は検索し始める。
最近、瑞稀の体調を心配して、出かけることを控えていたが、今日は思いもよらず日が高いうちに二人で出かけられて、晴人は嬉しそうだ。
「晴人さん…可愛い…」
気落ちが口から突いて出てしまった。
しまった!と口を抑えたが、もう遅い。
「瑞稀の方が可愛いよ」
晴人は瑞稀の額にキスをする。
「晴人さん、外ではダメです!」
額を抑えながら、瑞稀が頬を膨らませ、晴人を下から睨むと、
!!!
晴人は体をかがめ、今度は瑞稀の唇にキスをする。
「晴人さん!外ではダメです!」
もう一度キスをされまいと、瑞稀は晴人の唇を自分の手で覆う。
「大丈夫。誰も見てないって。それに見られていたとしても、夕方だから、よく見えないって」
口を塞いでいた瑞稀の手を晴人はそっと退け、微笑んだ。
そういう問題じゃ…。
本当に目撃者はいないのか?瑞稀があたりを見回すと…。
「ねぇママ。さっき背の高いかっこいいお兄ちゃんが、あの兄ちゃんにキスしてたよ」
無邪気に母親に話す、幼稚園児ぐらいの女の子と目があった。
「あ!キスしてたお兄ちゃん」
指を刺されて、顔から火が出るかと思うくらい赤面する。
そして瑞稀に向かって満面の笑みで手を振る女の子に、恥ずかしさから顔を引き攣らた笑顔を向け、瑞稀は手を振り返した。
バーはまだ営業し始めたばかりの夕暮れ時。
街頭の光が灯るか灯らないか…、そんな時間。
いつもの待ち合わせ場所で待っていた瑞稀のそばに、晴人が駆けてきた。
「体調、よくないのか?」
心配そうに、晴人は瑞稀を見る。
「いえ、体調はいいのですが、今日は早く上がらせてもらったんです」
瑞稀は笑顔で駆けてきた晴人を迎えた。
「何かあった?」
「いえ…。今日は僕がいなくてもお店が回るってことだったんです」
これは正確には嘘ではない。
本当は『瑞稀が抜けても、なんとかやっていける』と言うことだった。
オーナーは晴人との話し合いは早い方が良いと、瑞稀を帰らせたのだ。
「ならよかった。瑞稀から仕事をあがったってメッセージきた時は、何かあったんじゃないかって心配したんだぞ」
晴人は瑞稀に右手を差し出す。
「詳しく書かなくてすみません」
そう言いながら、瑞稀は晴人と手を繋ぐ。
「俺もさっき帰ってきたところだから、夕飯何もできてなくて…。もし瑞稀の体調がよかったら、何か食べて…帰る?」
瑞稀の体調を心配しながら晴人が言う。
本当は早く帰って、赤ちゃんの話したいけど…。
ちらっと見た晴人の顔が、あまりにも出かけることへの期待で、キラキラしていたので、
「はい。食べて帰りたいです」
瑞稀はそう答えた。
「本当に!?体調は大丈夫なのか?」
ワクワクが晴人から滲み出ている。
晴人さん、可愛い。
「はい、大丈夫です」
瑞稀は繋いでいた手を解き、晴人の腕に自分の腕を絡ませ、体を密着させる。
「じゃあ、瑞稀は何が食べたい?」
「えーっとですね…。しゃぶしゃぶが食べたいです」
「しゃぶしゃぶ?外はまだ暑いのに?」
日が落ちると少し寒くなってきたが、半袖でも過ごせる気温。
そんな時に、しゃぶしゃぶなんて思いもつかなかったような晴人だったが、
「冷房の効いた部屋で食べるお鍋は美味しいじゃないですか。ほら、冬に暖房の効いた部屋で食べるアイスみたいです」
えへへと瑞稀が笑う。
晴人が近くにいるだけで、さっきまで頭の中を占めていた悩みがなくなっていく。
晴人との時間だけが、瑞稀を癒していく。
このまま時が止まればいいのに…。
「じゃあ、この近くで美味しい鍋料理の店は…」
スマホを取り出し、晴人は検索し始める。
最近、瑞稀の体調を心配して、出かけることを控えていたが、今日は思いもよらず日が高いうちに二人で出かけられて、晴人は嬉しそうだ。
「晴人さん…可愛い…」
気落ちが口から突いて出てしまった。
しまった!と口を抑えたが、もう遅い。
「瑞稀の方が可愛いよ」
晴人は瑞稀の額にキスをする。
「晴人さん、外ではダメです!」
額を抑えながら、瑞稀が頬を膨らませ、晴人を下から睨むと、
!!!
晴人は体をかがめ、今度は瑞稀の唇にキスをする。
「晴人さん!外ではダメです!」
もう一度キスをされまいと、瑞稀は晴人の唇を自分の手で覆う。
「大丈夫。誰も見てないって。それに見られていたとしても、夕方だから、よく見えないって」
口を塞いでいた瑞稀の手を晴人はそっと退け、微笑んだ。
そういう問題じゃ…。
本当に目撃者はいないのか?瑞稀があたりを見回すと…。
「ねぇママ。さっき背の高いかっこいいお兄ちゃんが、あの兄ちゃんにキスしてたよ」
無邪気に母親に話す、幼稚園児ぐらいの女の子と目があった。
「あ!キスしてたお兄ちゃん」
指を刺されて、顔から火が出るかと思うくらい赤面する。
そして瑞稀に向かって満面の笑みで手を振る女の子に、恥ずかしさから顔を引き攣らた笑顔を向け、瑞稀は手を振り返した。
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