【完結】それでも僕は貴方だけを愛してる 〜大手企業副社長秘書α×不憫訳あり美人子持ちΩの純愛ー

葉月

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晴人の母 ②

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「手切金よ」

 清々しいまでの笑みで母親が答えた。

「小切手は4枚入ってるわ。好きな金額を、好きな時に受け取ってちょうだい」

「……」

 晴人の母親の言葉に、瑞稀は震える。

「だから、金輪際、晴人に近づかないでほしいの。これは瑞稀さんにとっても、いい話なのよ」

 母親は話を続ける。

「晴人にはちゃんとした・・・・・・婚約者がいて、半年後、入籍するの。お相手は総合病院のお嬢さん。そして晴人はゆくゆくは、主人が経営している病院の院長になって、代々受け継いできた山崎家を守っていくの。そのために晴人は今まで頑張ってきたの。それなのにあなたのせいで、今、晴人の人生は狂ってしまっているわ。晴人の幸せを願うなら、あなたは晴人と一緒にいるべきではないのよ。瑞稀さん、私は一生一緒になれない人といることは辛いと思うの。だったら今のうちにあなたにあった人を、探して幸せになるべきなんじゃないかしら?」

 つらつらと母親の口から、瑞稀を追い込む言葉が発せられる。
 胸が抉られて、赤い血が流れているようだ。

「晴人を幸せにするのも、不幸にするのもあなた次第なの。わかるでしょ?」

「……」

 瑞稀は何も言い返せなかった。
 今まで、晴人が頑張ってきた姿も、自分が晴人に見合っていないこともわかっていた。
 だけど、それでも瑞稀は晴人のそばにいたかった。
 瑞稀の顔をじっとみて、『好きだよ』『愛してる』と言ってくれる晴人が大好きだった。

 自分が愛されてるからだけじゃない。
 瑞稀自身も晴人を愛している。
 心の底から、ずっと。
 幼い頃、瑞稀を助けてくれた時からずっと。
 晴人は瑞稀の希望で憧れで、愛する人。

だから僕は…。

「受け取れません」

 差し出された茶色い封筒を、瑞稀は突き返した。

「晴人さんがご結婚されるのでしたら、きちんと晴人さんと話し合って、どうしていくか決めます。旦那様や奥様との関係も、僕がなんとかします。だから……」

 瑞稀がそう言いかけた時、

「あなたが何かできる立場だと思っているの?」

 氷河のような冷たい言葉が瑞稀を襲う。

「あなたは自分の存在が、晴人にとって、そんなに重要だと思ってるの?」

「……」

 瑞稀は何も言い返せない。

 晴人は瑞稀のことを特別だと言ってくれた。
 でも、その特別が晴人の人生を変えられるものなのか?
 変えていいものなのか?
 気持ちがぐらつく。

猶予ゆうよを1週間あげるわ。その間に晴人の前からいなくなってちょうだい」
 鈍器で頭を殴られた衝撃を瑞稀は受けた。
「あ、瑞稀さんの新しいご家族、幸せそうでなによりね。あなたがいなくなって、本当の家族になれたんじゃないかしら?あなたがいなくなった方が、みんな幸せになれるのね」

 そう言うと、晴人の母親は伝票をサッと取り、店を後にする。

 顔さえ上げられず止めることのできない涙を流し続け、残された瑞稀は、その場から動くことさえできなかった。
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