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晴人の母 ①

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 呼び止められた近くにあった喫茶店に、瑞稀と晴人の母親二人は入り、向かい合って座った。
 店員に運ばれてきたアイスコーヒーのグラスの周りについた水滴が流れ、コースターを濡らしている。

「呼び止めてしまって、ごめんなさい…」

 初めに口を開いたのは、母親の方だった。

「実は瑞稀さんとお話をしたいことがあって…」

 昔、瑞稀の母親が屋敷で住み込みの使用人をしていた時、晴人の母親は瑞稀のことを『瑞稀くん・・と呼んでいた。
 だが今は『瑞稀さん・・
 二人会わなかった日々の流れを感じる。

「……」

 言われなくても話の内容がわかった瑞稀は何も言えず、黙ったままだ。

「今、晴人と一緒に暮らしているって…お付き合いしてるって、本当?」

 物腰は穏やかだが、改めて晴人の母親に聞かれるとどきっとする。
 でもここで嘘はつけない。

「はい…」

 ためらいながらも、瑞稀は答えた。

「そう…。お付き合いしてどれぐらい経つの?」

「一年と少しです…」

 瑞稀がそう言うと、

「そう…」

 と母親は答え、

「瑞稀さんとお付き合いし始めて、晴人あの子実の親私たちと連絡を取らなくなったわ」

 と棘のある言葉を瑞稀に投げかけ、瑞稀の罪悪感を煽る。

「そのことはご存じ?」

 口調がキツくなる。

「はい…」

「いつから?」

「3週間前です…」

「私たちと晴人の今の関係を知っていながら、あなたは何もしてこなかったの?」

「……」

 そう言われてしまえば、瑞稀は何も言えない。
 瑞稀が黙っていると、晴人の母親はバックの中から、茶色い封筒を取り出し、

「受け取って」

 瑞稀に差し出した。

「これは…?」

 差し出された封筒を瑞稀が不思議そうに見つめると、

「中に小切手が入ってるの。そこに好きな金額を書いてもらったら、銀行ですぐに現金にしてもらえるわ」

「……え……?」

 母親の予想しない言葉に、瑞稀にはその理由が理解できず、顔を上げた。

「晴人と別れてほしいの」

「!!!」

「今は晴人と一緒に住んでいるから、別れた後、住む場所や家財道具を揃えないとダメでしょ?それに新しい仕事を探すまでのお金や、当面の資金が必要になると思うの。だからそのお金でまかなってほしいの」

「それって…もしかして……」

そんな…まさか……!!
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