『手紙を書いて、君に送るよ』  

葉月

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嘘のキス ①

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「先輩、怒ってるんですか?そんなに引っ張られたら、手首、痛いんですけど」
川口と別れてから、神谷は晶の手首を握ったまま、部室までずんずん歩き続け、部室のドアを勢いよく閉めると……

「!!!!…先…輩…?」

晶は神谷に抱きしめられた。
「ごめん。俺が悪かった…」
「…」
「松原の気持ち…、考えてるつもりだったけど、本当は自分の気持ちしか考えてなかった…」
「…」
「前と同じにしてたら、なにもなかったかと思えるかも…。思い出せるかも…って…。だから…」
「いいですって先輩」
徐々に涙声になっていく神谷の背中に、晶は腕を回しぎゅっと抱きしめ返す。
「先輩が何か思い出しそうだったら、それでいいですって」
「…」
「俺、そんなにか弱くないんで、大体のこと、大丈夫ですよ」

もし俺が薫や神谷先輩の事を、忘れたくなくて忘れてしまってたら、俺はなんとしてでも思い出そうとする。
多分、今の神谷先輩は、なにを覚えていて、なにを忘れているか不安なんだ。
俺は、俺ができること。
それで先輩の助けになるなら、していきたいと思ってますよ、先輩。

「先輩、帰るんですよね。いつも帰りにマッ○に寄ってたんですけど、今日も行きますか?」
晶が元気に言うと、
「キスして…いいか?」
「…え?…」
晶は驚きすぎて、反応が遅れた。
「キスしていい?」
神谷は晶の目を見つめる。
「え……、冗談ですよね…」

冗談キツい…
本当に…
俺、偽物の恋人だから…

「恋人のこと…松原の事好きだなって思っちゃダメなのか?」
「…それは…」

ダメだ。
先輩が俺に対して持っている好きは、擬似的な物だ。
先輩、今弱ってるから、すぐ近くにいる俺のこと頼りたくなって…
それで……

「なぁ……ダメか?……」

あ、やばい……
先輩から目、離せない…

神谷の晶を見つめる瞳に夕日が反射して、黒い瞳をより際立たせ、

やばい……

晶はその瞳に吸い込まれるように神谷に近づき…
キスをした。

あ……やっちゃった……
ダメなのに……

晶はそう思いながら唇を離そうとしたが、それを阻止するように、神谷が晶の腰と頭の中後ろに手を回し、そして、

「‼︎…………っん……」

神谷は晶の唇を舌でこじ開け、口内へと入り込んできた。

まって‼︎

晶は神谷を押し退けようとしたが、晶をしっかりと抱きしめている神谷はびくともしない。

神谷の舌は晶の歯並びを舌でなぞり、舌を絡め、上顎を舐める……
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