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嘘 ①
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こういうときは、帰宅部って本当に助かる。
顔見知りになった看護師さんと挨拶しながらすれ違い、神谷の病室に向かう。
このノート渡したら、ちゃんと言うんだ。
『やっぱり、お礼は結構です』って。
ドアをノックすると、『どうぞ』と神谷の声。
中に入ると、いつでも退院できるよう準備してされていた。
「先輩、退院おめでとうございます。あの、これサッカー部の川口先輩からお預かりしました」
輝は預かったノートを神谷に渡す。
「あとそれから、先輩が言われてたお礼、あれ、やっぱり結構です」
晶が言い終わると同時に、
「え?なんで?」
神谷が聞き返す。
だって、それは……
「俺、大したことしてませんし、先輩だって退院したてで、大変だと思うし…」
もう先輩と個人的に会うのは終わりにしたいんだ…
「……。なぁ松原くん。7月5日って、もしかして君の誕生日?」
「‼︎」
神谷の言葉に、晶の心臓はギュッと締め付けられ、息が苦しくなる。
「その日さ、俺たち、何か約束してなかった?」
神谷の問いかけに、晶の胸はさらに締め付けられ、胃液が上がってきそうになる。
無意識のうちに晶が胸元の服を握り、前のめりになり、足元がふらつく。
「松原くん‼︎大丈夫?」
よろけそうになる晶を神谷が受け止め、ベットに座らせた。
頭がガンガンする。
その日のことは言わないでくれ!
二度と思い出したくないんだ。
あんな日なんか、消えて無くなればいいのに‼︎
「大丈夫か?冷や汗かいてるぞ」
髪が汗で額にひっつき、それを神谷が払おうと手を伸ばし、あともう少しで晶の髪に神谷の手が当たりそうになった時、
「大丈夫です…」
下を向きながら、晶は神谷の手を払いのけた。
「いや、大丈夫じゃないだろ?」
神谷が晶の顔を覗き込むと、
「大丈夫です」
晶は顔を背ける。
早く、
早く帰りたい。
「本当に大丈夫なんで、これて失礼します」
すくっと晶が立ち上がり、ドアに向かうと
‼︎‼︎
パシッと神谷に手首を掴まれた。
「なぁ俺、松原くんになんか変なことした?」
「え?」
予想もしなかった質問に、晶は神谷の方に振り返った。
「なんか、俺の事避けてんじゃん」
「それは…」
一緒にいたら苦しくなるから。
俺のせいで薫と先輩を巻き込んでしまった事故のこと。
薫と先輩が仲良く過ごしていた時のこと。
3人楽しくつるんだ時のこと…
全部、ぶぁーっと頭の中に流れてくるんだ。
「スマホのスケジュールに、その日だけ予定が書いてあってさ」
神谷は晶の腕を掴んだまま話し出した。
「その日『松原誕生日、ホールケーキ取りに行く』って書いてあったんだ。スマホのリダイアル見たら、松原の番号に何回もかけてるし……」
ケーキは薫と取りに行く約束で、電話も薫にかけた電話。
決して俺じゃない。
「先輩、それは…」
晶が言いかけたとき、
「なぁ、俺たち付き合ってたのか?」
!!!!
今まで締め付けられていた心臓が、今度は止まりそうになる。
「ちがっ‼︎ちがいます‼︎先輩と付き合ってたのは…」
「じゃあなんで、スケジュールにあんな事書いてあって、リダイヤル松原ばっかりなんだよ。しかもこれ…」
神谷は枕元に置いていた、封筒を取り出した。
映画館のチケットが入ってる封筒だ。
そこには映画館のロゴがプリントされていて、裏を向けると、そこには
‼︎
俺の名前⁉︎
『松原晶様』と神谷の几帳面な文字で書かれていた。
しかも中にはチケットが二枚……
「どうして…これ…」
晶が訳がわからないという風に、神谷を見上げる。
「俺もよくわからない。でも、それだけ、大事そうにクリアファイルに挟んで、鞄の中にしまわれてた」
「…」
「もしかしたらこれ、松原への誕生日プレゼントだったのかもしれない…」
それはそうかもしれない。
でもそれだけで、
チケットが二枚ってだけで、俺が先輩と付き合ってたなんて思うはずがない。
「先輩、きっとこれは『みんなで映画行こう』って話じゃないんですか?きっとそうで……‼︎‼︎」
晶が言い終わらないうちに、晶は神谷に引き寄せられ、抱きしめられていた。
「先……輩…?」
「松原、俺に忘れさせないでくれ…」
晶の耳元で神谷の悲しそうな声が響く。
「俺、いろんなこと忘れてしまったけど、大切な人のことぐらい覚えておきたいんだ…」
「‼︎‼︎」
「なんでも大雑把な俺が、スマホのスケジュールに予定入れて、リダイヤル、松原でいっぱいになるぐらいかけてて、映画のチケットまで用意してる。そんな事、ただの後輩にするか?」
「それは…」
『それは俺のためじゃない‼︎』
喉元までこの言葉が出てきているのに、その言葉が口から発することができない。
「なぁ松原、俺たち付き合ってたよな…」
「…」
違う‼︎
俺じゃない‼︎
先輩の大切な人は薫だ!
晶の口から、その言葉が発せられる…
その時、
「記憶だけじゃなくて、俺から大切な人まで奪わないでくれ……」
!!!!
神谷の悲痛な叫びが、晶の胸をえぐった。
もし今、先輩の大切な人が、もうこの世にいないと言ってしまえば、
先輩はどうなってしまうんだろう…
先輩まで消えて、いなくなってしまう⁉︎
それは嫌だ‼︎
絶対に嫌だ!!!!
「なぁ、松原…」
「はい…」
「俺たちってさ…、付き合ってたよな…」
先輩の問いかけに、俺は
「はい、俺、先輩の恋人です」
嘘をついた。
顔見知りになった看護師さんと挨拶しながらすれ違い、神谷の病室に向かう。
このノート渡したら、ちゃんと言うんだ。
『やっぱり、お礼は結構です』って。
ドアをノックすると、『どうぞ』と神谷の声。
中に入ると、いつでも退院できるよう準備してされていた。
「先輩、退院おめでとうございます。あの、これサッカー部の川口先輩からお預かりしました」
輝は預かったノートを神谷に渡す。
「あとそれから、先輩が言われてたお礼、あれ、やっぱり結構です」
晶が言い終わると同時に、
「え?なんで?」
神谷が聞き返す。
だって、それは……
「俺、大したことしてませんし、先輩だって退院したてで、大変だと思うし…」
もう先輩と個人的に会うのは終わりにしたいんだ…
「……。なぁ松原くん。7月5日って、もしかして君の誕生日?」
「‼︎」
神谷の言葉に、晶の心臓はギュッと締め付けられ、息が苦しくなる。
「その日さ、俺たち、何か約束してなかった?」
神谷の問いかけに、晶の胸はさらに締め付けられ、胃液が上がってきそうになる。
無意識のうちに晶が胸元の服を握り、前のめりになり、足元がふらつく。
「松原くん‼︎大丈夫?」
よろけそうになる晶を神谷が受け止め、ベットに座らせた。
頭がガンガンする。
その日のことは言わないでくれ!
二度と思い出したくないんだ。
あんな日なんか、消えて無くなればいいのに‼︎
「大丈夫か?冷や汗かいてるぞ」
髪が汗で額にひっつき、それを神谷が払おうと手を伸ばし、あともう少しで晶の髪に神谷の手が当たりそうになった時、
「大丈夫です…」
下を向きながら、晶は神谷の手を払いのけた。
「いや、大丈夫じゃないだろ?」
神谷が晶の顔を覗き込むと、
「大丈夫です」
晶は顔を背ける。
早く、
早く帰りたい。
「本当に大丈夫なんで、これて失礼します」
すくっと晶が立ち上がり、ドアに向かうと
‼︎‼︎
パシッと神谷に手首を掴まれた。
「なぁ俺、松原くんになんか変なことした?」
「え?」
予想もしなかった質問に、晶は神谷の方に振り返った。
「なんか、俺の事避けてんじゃん」
「それは…」
一緒にいたら苦しくなるから。
俺のせいで薫と先輩を巻き込んでしまった事故のこと。
薫と先輩が仲良く過ごしていた時のこと。
3人楽しくつるんだ時のこと…
全部、ぶぁーっと頭の中に流れてくるんだ。
「スマホのスケジュールに、その日だけ予定が書いてあってさ」
神谷は晶の腕を掴んだまま話し出した。
「その日『松原誕生日、ホールケーキ取りに行く』って書いてあったんだ。スマホのリダイアル見たら、松原の番号に何回もかけてるし……」
ケーキは薫と取りに行く約束で、電話も薫にかけた電話。
決して俺じゃない。
「先輩、それは…」
晶が言いかけたとき、
「なぁ、俺たち付き合ってたのか?」
!!!!
今まで締め付けられていた心臓が、今度は止まりそうになる。
「ちがっ‼︎ちがいます‼︎先輩と付き合ってたのは…」
「じゃあなんで、スケジュールにあんな事書いてあって、リダイヤル松原ばっかりなんだよ。しかもこれ…」
神谷は枕元に置いていた、封筒を取り出した。
映画館のチケットが入ってる封筒だ。
そこには映画館のロゴがプリントされていて、裏を向けると、そこには
‼︎
俺の名前⁉︎
『松原晶様』と神谷の几帳面な文字で書かれていた。
しかも中にはチケットが二枚……
「どうして…これ…」
晶が訳がわからないという風に、神谷を見上げる。
「俺もよくわからない。でも、それだけ、大事そうにクリアファイルに挟んで、鞄の中にしまわれてた」
「…」
「もしかしたらこれ、松原への誕生日プレゼントだったのかもしれない…」
それはそうかもしれない。
でもそれだけで、
チケットが二枚ってだけで、俺が先輩と付き合ってたなんて思うはずがない。
「先輩、きっとこれは『みんなで映画行こう』って話じゃないんですか?きっとそうで……‼︎‼︎」
晶が言い終わらないうちに、晶は神谷に引き寄せられ、抱きしめられていた。
「先……輩…?」
「松原、俺に忘れさせないでくれ…」
晶の耳元で神谷の悲しそうな声が響く。
「俺、いろんなこと忘れてしまったけど、大切な人のことぐらい覚えておきたいんだ…」
「‼︎‼︎」
「なんでも大雑把な俺が、スマホのスケジュールに予定入れて、リダイヤル、松原でいっぱいになるぐらいかけてて、映画のチケットまで用意してる。そんな事、ただの後輩にするか?」
「それは…」
『それは俺のためじゃない‼︎』
喉元までこの言葉が出てきているのに、その言葉が口から発することができない。
「なぁ松原、俺たち付き合ってたよな…」
「…」
違う‼︎
俺じゃない‼︎
先輩の大切な人は薫だ!
晶の口から、その言葉が発せられる…
その時、
「記憶だけじゃなくて、俺から大切な人まで奪わないでくれ……」
!!!!
神谷の悲痛な叫びが、晶の胸をえぐった。
もし今、先輩の大切な人が、もうこの世にいないと言ってしまえば、
先輩はどうなってしまうんだろう…
先輩まで消えて、いなくなってしまう⁉︎
それは嫌だ‼︎
絶対に嫌だ!!!!
「なぁ、松原…」
「はい…」
「俺たちってさ…、付き合ってたよな…」
先輩の問いかけに、俺は
「はい、俺、先輩の恋人です」
嘘をついた。
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