13 / 67
お礼
しおりを挟む
ーー診察終わるまで、ちょっと待っててーー
目覚めたその日、診察に向かう神谷にそう言われた晶は病室で1人、ポツンと神谷が診察が終わるのを待っていた。
なんの用だろう…
早く帰ろうと思ってたのに…
そんな事を考えていると、病室のドアが開き、神谷が座る車椅子を看護師が押し、部屋の中に入ってきた。
「それじゃあ、何かあったらナースコール押してね」
「はい。ありがとうございます」
神谷が爽やかに笑うと、看護師は病室から出て行った。
「松原君……、だっけ…。毎日見舞いに来てくれてたみたいで…。その…、ありがとう」
車椅子から降り、ベットに腰掛けた神谷がそう言った。
先輩、俺の事覚えてないから、先輩にとっては俺は初対面の同じ高校のただの後輩。
なのに気持ち悪がらず、ちゃんとお礼を言ってくれるなんて、やっぱり先輩はいい人だ。
「いえ…、勝手にさせてもらってただけですので…。先輩からしたら、知らない奴が見舞いに来てたって、気持ち悪いことして、すみません…」
晶は神谷に少し頭を下げた。
「それじゃあ、俺帰ります。先輩、早く良くなって下さいね」
それだけ言うと、晶は神谷に背を向ける。
これでいいんだ。
先輩ときっぱり離れられる。
ただ俺が先輩を見つめていた…、そんな時期と同じになっただけじゃないか…
薫の恋人は先輩で、
先輩の恋人は薫。
俺はただのその他大勢の後輩だ。
悲しむことなんてない。
今はただ、先輩が薫のことだけでも思い出してくれれさえすれば、それでいい…
さよなら、先輩……
大好きでした。
晶が心の中でつぶやき、部屋のドアに手をかけた時、
「待って!」
後ろから神谷が晶を呼び止める声がした。
晶が振り向くと、
「待って。俺、今日まで検査入院だけどさ、明日…明日退院なんだ。それで、もし松原君が良ければ……」
「…」
「何かお礼させてくれないか?」
「…お礼…ですか?」
「そう、毎日花持って見舞いに来てくれていたお礼。ダメか?」
神谷は晶の様子を伺うように聞いた。
え⁉︎
それって、もしかして…
いや、そんなわけない……
「いえ、そんな…。俺、たいしたことしてませんし…」
晶は断るが
「母さんが、その、松原君には本当に世話になったって…。いつも俺に付き添ってくれてたって…。だから…」
ああ、そうか。
先輩はおばさんに言われたから、あんな事言ってくれたんだ。
俺って馬鹿だな……
一瞬、一瞬だけだけど、先輩が俺にお礼をしたいって本気で思ってくれてるって、勘違いしそうになった。
これで俺が断ったら先輩、後でおばさんに叱られるのかな?
「じゃあお言葉に甘えて…」
晶がそういうと、神谷はほっとした表情になり、神谷は晶が好きな笑顔を晶に向ける。
「それじゃあさ、松原君はお礼、何がいい?」
「‼︎それ、本人に聞きます?」
晶は神谷の言葉を聞いて笑いそうになった。
「ダメか?」
「普通お礼する人が、そういうの、考えるんです」
「やっぱりそうか……」
「そうです」
「明日まで考えておくよ」
「楽しみにしてます」
それだけ言うと、今度こそ部屋から出ようとする晶に向かって神谷が
「俺も楽しみにしておく」
そう言って晶を見送った。
目覚めたその日、診察に向かう神谷にそう言われた晶は病室で1人、ポツンと神谷が診察が終わるのを待っていた。
なんの用だろう…
早く帰ろうと思ってたのに…
そんな事を考えていると、病室のドアが開き、神谷が座る車椅子を看護師が押し、部屋の中に入ってきた。
「それじゃあ、何かあったらナースコール押してね」
「はい。ありがとうございます」
神谷が爽やかに笑うと、看護師は病室から出て行った。
「松原君……、だっけ…。毎日見舞いに来てくれてたみたいで…。その…、ありがとう」
車椅子から降り、ベットに腰掛けた神谷がそう言った。
先輩、俺の事覚えてないから、先輩にとっては俺は初対面の同じ高校のただの後輩。
なのに気持ち悪がらず、ちゃんとお礼を言ってくれるなんて、やっぱり先輩はいい人だ。
「いえ…、勝手にさせてもらってただけですので…。先輩からしたら、知らない奴が見舞いに来てたって、気持ち悪いことして、すみません…」
晶は神谷に少し頭を下げた。
「それじゃあ、俺帰ります。先輩、早く良くなって下さいね」
それだけ言うと、晶は神谷に背を向ける。
これでいいんだ。
先輩ときっぱり離れられる。
ただ俺が先輩を見つめていた…、そんな時期と同じになっただけじゃないか…
薫の恋人は先輩で、
先輩の恋人は薫。
俺はただのその他大勢の後輩だ。
悲しむことなんてない。
今はただ、先輩が薫のことだけでも思い出してくれれさえすれば、それでいい…
さよなら、先輩……
大好きでした。
晶が心の中でつぶやき、部屋のドアに手をかけた時、
「待って!」
後ろから神谷が晶を呼び止める声がした。
晶が振り向くと、
「待って。俺、今日まで検査入院だけどさ、明日…明日退院なんだ。それで、もし松原君が良ければ……」
「…」
「何かお礼させてくれないか?」
「…お礼…ですか?」
「そう、毎日花持って見舞いに来てくれていたお礼。ダメか?」
神谷は晶の様子を伺うように聞いた。
え⁉︎
それって、もしかして…
いや、そんなわけない……
「いえ、そんな…。俺、たいしたことしてませんし…」
晶は断るが
「母さんが、その、松原君には本当に世話になったって…。いつも俺に付き添ってくれてたって…。だから…」
ああ、そうか。
先輩はおばさんに言われたから、あんな事言ってくれたんだ。
俺って馬鹿だな……
一瞬、一瞬だけだけど、先輩が俺にお礼をしたいって本気で思ってくれてるって、勘違いしそうになった。
これで俺が断ったら先輩、後でおばさんに叱られるのかな?
「じゃあお言葉に甘えて…」
晶がそういうと、神谷はほっとした表情になり、神谷は晶が好きな笑顔を晶に向ける。
「それじゃあさ、松原君はお礼、何がいい?」
「‼︎それ、本人に聞きます?」
晶は神谷の言葉を聞いて笑いそうになった。
「ダメか?」
「普通お礼する人が、そういうの、考えるんです」
「やっぱりそうか……」
「そうです」
「明日まで考えておくよ」
「楽しみにしてます」
それだけ言うと、今度こそ部屋から出ようとする晶に向かって神谷が
「俺も楽しみにしておく」
そう言って晶を見送った。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【BL】記憶のカケラ
樺純
BL
あらすじ
とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。
そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。
キイチが忘れてしまった記憶とは?
タカラの抱える過去の傷痕とは?
散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。
キイチ(男)
中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。
タカラ(男)
過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。
ノイル(男)
キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。
ミズキ(男)
幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。
ユウリ(女)
幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。
ヒノハ(女)
幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。
リヒト(男)
幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。
謎の男性
街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる