『手紙を書いて、君に送るよ』  

葉月

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目覚め ①

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ーーピッピッピッピッーー

病院の個室のドアを開けると、規則正しい心拍数が晶の耳に入ってくる。

「先輩、遊びに来ましたよ」
「…」
「今日は『ひまわり』にしました。夏ですからね」
「…」
「外、びっくりするぐらい暑いですよ。だから、今日の部活は室内筋トレだそうで…。それはそれでキツイですよね」
「…」
「じゃあ、花瓶の水、変えますよ。…大丈夫です。まだ綺麗な花は捨てません」
「…」

晶は何の返事もない神谷に話しかけ、まるで会話をしているかのように振る舞う。

神谷は一命を取り留めた。
だが、あらから一週間、目を覚さない。

医者からは
『もう、いつ目覚めてもいい頃』
と言われ、そして
『いつ目覚めるかは、わからない』
とも言われた。

晶は毎日、学校帰り眠ったままの神谷の病室に顔を出し、色々話しをしていた。

「先輩、中間考査の結果がかえってきたんですけど、すごい点数で……って、悪かったんですけどね、また今回も薫と一緒に教えて……」
晶はそこまで言いかけ、ハッとし、言葉を詰まらせた。

先輩。
いつもは薫と一緒に俺に勉強、教えてくれてましたよね。
もう、それもできない。
薫はもういない。
だけど、そう思えないんです。
『あれは嘘だったんだよ』って、どこからか薫が出てきてくれそうで……

ねぇ先輩。
俺と一緒に薫の事、探してくれませんか?
もう俺1人で探すの…
限界なんです。

「やっぱり1人は…、限界です…」
「…」
晶がそっと神谷の手に触れたが、反応はない。

「……。先輩、今日はもう帰って、また明日来ますね」
そう言って、神谷に触れていた手を離すと…

!!!!

神谷の指が、微かに、ほんの微かに動いた。

「先輩⁉︎⁉︎」

慌てて晶が声を掛けると、

「!!!!」

またピクリと動く‼︎

「先輩、わかりますか⁉︎俺です‼︎晶……、松原晶です‼︎」

また動く。

「先輩‼︎」

晶は急いでナースコールを鳴らす。
「どうしましたか?」
元気な看護師の声が聞こえると、
「先輩が…、神谷さんが目覚めました‼︎」
晶は叫んだ。
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