『手紙を書いて、君に送るよ』  

葉月

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失恋

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あれはたしか薫がサッカー部に入って二ヶ月経った頃。
先輩とも仲良くなって、3人でよく出かけていた。
映画にいったり、バッティングセンター行ったり、先輩の家や、薫の家でゲームして、そのまま晩ご飯ご馳走になったり。
それなりに仲良かったし、楽しかった。
俺は先輩のそばに入れるだけでよかった。

でも……。


薫とクラスは違うが、どちらかが誘い合って、弁当を一緒に食べる。
これが、中学からの俺たちの習慣。
いつもは授業が早く終わる薫が、俺の教室まで誘いにやってくる。
だけどその日はこなかった。
だから俺が薫の教室まで迎えに行くと…。

「長谷部君なら三年生の神谷先輩に呼び出されて、さっに出て行ったよ~」
 教室の入り口近くで弁当を食べていた女子が教えてくれた。

先輩が薫を呼び出し?
今までそんなことなかったし、何かするとなれば、いつも薫と俺、一緒に声をかけられていた。
だけど今日は薫だけ。
嫌な予感がする。

 神谷が行きそうなところを、晶は探してみた。
 食堂、サッカー部の部室。屋上も見てみたけど、2人はいなかった。

いったいどこへ…。

3階の廊下をウロウロしながら、ふと中庭を見ると、

あ、いた。

 誰もいない中庭の大きな木の下で、2人向かい合って立っていて、なんだかいつもより緊張しているのが、遠目から見ていた晶にも伝わってくる。

あそこでいったい…。

 2人の様子を見ようと窓辺に近づくと、神谷が何か薫に言ったようで、その言葉を聞いて薫が驚く。
 そして数秒経った時、今度は薫が神谷に何かを言うと……。

!!!!

 神谷が薫を抱きしめた。
  そして一度体を離すと、お互い恥ずかしそうに俯いて、
そしてまた顔を上げると、頬を赤らめたまま微笑んでいた。


あ…………。
神谷先輩、薫に告白したんだ。
薫もそれを受け入れて…。
あんなに幸せそうな2人、見たことない。

そりゃそうだろうな。
好きな人が、自分のことを好きでいてくれて、しかも相手は同性同士。
こんな狭い世界の中で結ばれるって、そんな事、奇跡でしか起こらないと思ってた。

でも、意外と身近にあるもんだな。
奇跡って。
その奇跡が俺に訪れず、薫と神谷先輩に訪れただけ。

中庭に咲く草木だって、花壇の花だって、2人を優しく包み込み、2人を取り巻く風も、日の光も、木漏れ日だって、祝福してるように見える。

だからかな?
不思議と涙はでなかった。
妬みも嫉妬も悔しさも…。
全くと言っていいほどなかった。
俺が2人を見ていて、初めに思ったこと。
それは、
『2人が幸せであって欲しい』
それだけだった。

薫と神谷先輩の笑顔を見たら、何も言えなくなってしまった。
本当は、少しぐらい泣いたり、薫を先輩と引き合わせてしまったことを後悔したりできたら、よかったのか?
でも思わなかったんだから、仕方ない。
自分で言うのもなんだけど、あの時の俺、絶対変わってる。

あ、ただ少し『薫と神谷先輩と俺の間に距離ができてしまって、少し寂しくなるな』と、思ってしまった。
『薫が神谷先輩と付き合ったことを報告してくれた時、俺はちゃんと笑えるかな?』だったな。

なぁ、薫。
俺から聞いた方が良かったのか?

神谷先輩に見つめられると嬉しそうに照れる薫の姿を見て、

『最近いいことあった?』 

って。

あの日から、薫が生き生き神谷先輩と話す姿を、俺は側で見ていて、

『薫が幸せなら…』

そう思っていたよ。

なのになんで最後まで言ってくれなかったんだよ……。
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