『手紙を書いて、君に送るよ』  

葉月

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薫からのお願い

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「晶、電話ありがとう。いつも、ごめんね…」
 電話での余韻か、頬を赤らめながら薫が晶にスマホを返すと、
「べつにいいよ。薫のスマホ、繋がらないってわかってるから」
 晶は薫からスマホを受け取る。
「薫、電話鳴ってても、全然気が付かないだろ?だからみんな薫に用がある時は、俺に電話するんだよ…。そんなの今更だって」
 晶の言葉に薫は、えへへと笑い、晶も一緒に笑うが…。

うまく笑えただろうか……?

 晶の心の声は呟く。

薫が神谷先輩と話す姿を見ると、胸が苦しくなる。
敵わない恋だってわかってる。
だって神谷先輩の恋人は薫だ。
でも、薫からは何も言ってくれないんだな。
幼馴染みの俺にも言えないのか?
別に男と付き合ってもいいじゃん。
それを俺が、変な目で見ると思ってる?
そりゃ俺だって薫に、自分がゲイだって事隠してる。
じゃあ、俺がゲイだって薫に告白したら、薫も神谷先輩と付き合ってるって、俺に教えてくれるのか?

俺、知ってるんだよ。
この前神谷先輩に薫が呼び出された事……。
あれは………。


「…ら、…きら、あきら!晶ってば!!」
「わ!!」
 薫に名前を大声で呼ばれ晶が我に返ると、晶の目の前に薫の顔があった。
「晶、さっき俺が話したこと、聞いてなかった?」
 やれやれと言いたげに、薫は晶のおでこを突いた。
「…。ごめん…。なんの話?」
「はぁ~…。やっぱり聞いてなかった。もう一回言うけど、これで最後だからね」
「はい…。すみません…」
 晶がわざとふざけて答えると、薫が少し呆れ顔になり、そして笑う。
「今月の5日、晶の誕生日だろ?」
 薫が晶の机にある卓上カレンダーの7月5日のところが目立つよう、赤丸をした。
「あー、そうだった」
 まじまじとカレンダーを見て、自分の誕生日が今週の5日だと、晶は確認した。

意外と自分の誕生日って忘れるもんなんだなー。
そういや、この前母さんに『何か欲しいものある?』って聞かれたの、誕生日プレゼントのことだったのか?

「その反応は忘れてたな~」
 薫がやれやれと、横目でチラッと晶を見る。
「だって、別に祝うことねーじゃん」
「それは、去年まで。今年は盛大に祝うよ‼︎晶の誕生日パーティー‼︎」
「え?なんで?」
「それは、晶の特別な記念日になるから!!」
「?」
「今から楽しみじゃない?」
 誕生会の主役である晶より、薫の方が楽しみで楽しみで、仕方なさそうだ。
「いや……別に…。それに誕生日パーティーって歳でもないし…」

むしろ、恥ずかしい…

「そのパーティー、俺んちんでしない?」
「へ?」
「いいじゃん。ね、しよーよー」
 薫はキラキラした目で晶を見つめる。
「えー…そんなの、ママさんもいる中するんだろ?恥ずかしいじゃん…」

なんの羞恥プレイだよ。

「ご心配を無用です!母さん仕事だから、パーティースタートしだす頃にはいないよ」
「あ、でも、その日平日で学校じゃん」
「大丈夫、テスト期間中だから部活もないし、帰り早い」
「そんなめんどくさいことしなくてもさ、その日に薫が何か奢ってくれればいいじゃん……。って、それが一番良くねー?」

名案。

「大丈夫。プレゼントもう決めてるから。だから晶は何も気にせずに」
 ニッコリ笑う薫は、本当に楽しそうで……。

ここまで俺の誕生日の為に張り切ってくれてるんだから、今回は好意にあまえようかな…。

「そこまでしてくれてるんだったら、今年は誕生日パーティー、薫にお願いしようかな…」
今度は晶がやれやれと薫をみると、

!!!!

「薫!!どうした!なんで泣いてる!?」
 薫は涙を流しながら笑っていた。
「俺、嬉しくて…」
「なに!?泣くほど!?なんで!?」
 晶は何故薫が泣いているかわからない。
「その日が…、晶の記念日になるから…」
 薫はもう顔がぐちゃぐちゃになるほど泣いている。
「それはもう聞いたって。だからって泣くか?」
「泣くよ~」
「…それ、本当に嬉し泣き?パーティーするの嫌だったらしなくても…」
「絶対にする~!!」
「薫、お前笑ったり泣いたり…情緒不安定か……?ま、訳わかんねーけど…。その日楽しみにしてるから、よろしくな」
 晶がよしよしと薫の頭を撫でながら微笑むと、
「頑張る~」
 薫は泣きながら笑った。
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