俺のスパダリはギャップがすごい 〜いつも爽やかスパダリが豹変すると… 〜

葉月

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俺のスパダリはギャップがすごい ー立花蓮sideー

ランチ

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「おろせっ、このやろバカヤロどアホ……ぐへっ! いきなり下ろすなあっ」

 いきなりぽすんと放り出されたのは、リョウマのベッドの上だった。魔王が片手をひょいと振るだけで、側付きの者たちは潮が引くように外へ出ていく。

「下ろせと申したり、下ろすなと申したり。そなた一体、私にどうして欲しいのだ」
「べっ、べつにどうもして欲しくねえっ」

 叫びながらがばっと上体を起こした時にはもう、すぐ隣に座りこまれてひょいと顎に手を掛けられていた。

「そう言えば、もうそろそろ致さねばならぬ頃合いだな」
「ほえっ? な、なにをだよ……」
「とぼけるでない。体液の交換よ。そろそろしておかねば、そなたが困ることになるやもしれぬ」
「うっ……」

 軽く顎を上げられてみれば、すぐ目の前に魔王の端正な顔があった。リョウマは思わずごくりと喉を鳴らし、口を一文字に噛みしめる。ぎゅっと睨みつけたら、魔王は意外にもやや落胆の色を見せた。

「心配せずともよい。『無理強むりじいはせぬ』と申したではないか」

 そう言っていながら、一向にリョウマのそばを離れる様子も、顎を放す様子もない。リョウマはさらにむうっとふくれっ面を作った。

「……だったら放せよ。あっちいけ」
「断る」
「っんだよ、それ!」
「なんなのだろうな? それは私も訊きたいよ。そなたにこそな」
「は……?」

 魔王はふっとかすかに微笑むと、リョウマの頬をほんのわずかに触れる程度に撫でた。

「そなたがまことに『イヤだ』と申しておるのならば否やはない。そなたの思う通りにしよう。私が約束をたがえることなどあり得ぬ。そこは信じてもらいたい。……しかし、本当にイヤなのか?」
「な、なに?」
「気づいておらぬと思ったか」
「え──」

 ぐっと魔王の顔が近づいてきて、リョウマは目を見開いた。一瞬、思わず呼吸が止まる。

「普通、人は嫌悪する相手に非常に強く、攻撃的な凄まじい《気》を放つものだ。だが、今のそなたからは、そういう《気》をほとんど感じぬ。このところは特にな」
「な……なにを言って──」
「拒絶する気があるのなら、もっと抵抗するものではないか? いや抵抗どころではないな。これほど近くに不倶戴天の敵がおるのだぞ。大暴れをし、あるいは悪だくみをして、私の隙をつき命を取ろうとしたとて、なんの不思議もない。そなたはほかならぬ私の仇敵、あの《戦隊レッド》なのだから」
「う……」

 そこは返す言葉もない。誰よりもリョウマ自身が、自分の大きな変化に戸惑っているのだから。
 だが、今の自分はもうこの男を心底から憎めなくなっている。
 本当は認めたくなかった。そうしていられるものなら、このままずっと目を逸らしつづけていたかった。けれど、真正面からこの男に真面目な顔で問い詰めてこられては、もう自分自身にもごまかしは効かなかった。
 事実を突きつけられる。
 誰よりも、自分自身の心がそう突きつけてくる。

(俺、は……)

 そんなことでいいのか。いや、いいはずがない。
 自分は《BLレッド》だ。《BLレンジャー》のリーダーだ。そんなことは許されない。あってはならないことなのだ──。
 リョウマはぎゅっと目をつぶってうつむいた。意識していたわけではないが、その頭がすぐ目の前の魔王の胸元にとん、と当たる。

「俺……サイテーだ」
「そんなことはない」

 大きな手が自分の背中を優しくさすっているのに気づいたら、あっという間に涙腺が危なくなった。それを堪えようとしたら、今度はひどく声がかすれた。

「こんなバカなことあるか? アホだろ俺。なにやってんだ、だって俺は」
「そなたがなんでも、同じことだ。そなたは何も悪くない。ただ心が広いだけだ」
「なわけねえっつうんだようっ」

 片手で目元を覆ってうなだれ、黙り込む。うっかりすると嗚咽が漏れ出てしまいそうで、必死で歯を食いしばった。

「……リョウマ」
「…………」
「もう一度、たずねてもよいか」

 リョウマは答えない。いや、答えることができなかった。嗚咽をせき止めた喉は詰まって、もう声なんて出せなかったから。
 魔王の両腕が、リョウマの背中をそっと抱き寄せるのを感じた。ひどく優しくて、温かい腕だった。

「そなたと口づけがしたい。……ダメだろうか」
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