上 下
68 / 217
第五弾

大切な仲間 ①

しおりを挟む
そんな時、日々を過ごしているとき


「佐々木、実は相談があってな…」

真司は昼休憩に入る前、野宮に呼び止められた。

野宮からの相談なんて珍しい。
よっぽどの事があったんだろうな。

「どうした?」
「ここではちょっと…だから、仕事帰り一緒に飲みに行ってくれないか?」
野宮は辺りを見回し小声になる。
「それは勿論いいけど…俺に、しかもこんな急に相談って、そんなにやばいのか?」
「やばくはないけど、大事な事かな…あ、店は俺が決めていいか?ちょっと落ち着いた所で話したくて」
「ああ。野宮、本当に大丈夫かか?なんなら、今すぐ場所変えて聞くけど」

いつも冷静な野宮がここまで言うってことになると、相当な事なんだろう。

「それが…」
野宮が何か言いかけた時、
「野宮くん、ちょっと…」
上司に野宮が呼ばれた。
「佐々木、悪いけどそう言う事なんで、よろしくな」
そう言って、野宮は上司の元へかけていった。



「……って言うことがあって、今日は帰りが遅くなると思う」
真司は電話で蓮に先程の野宮との経緯を説明した。
『そうなんだ。野宮さんからの相談なんて珍しいね……真司、実は俺もさっき林さんから相談したい事があるって言われたから、仕事帰り飲みながら話し聞こうかと思って、真司に連絡しようと思ってたんだよ』
「え?蓮も?重なることもあるんだな」
『本当にな…また家に帰る時、連絡する』
「俺も連絡するよ」
そう言って二人は電話を切った。


野宮と真司は出来るだけ仕事を早く終わらせ向かった先、真司が蓮と初めて会った思い出のバーだった。
店内はまだ薄暗く、営業し始めたばかりなのか、奥のテーブルに数名の人が飲んでいた。

「野宮もここのバーに来てたんだな」

今までここで会った事なかったから、知らなかったけど、野宮もここにきてたなんて世間って意外と狭いんだな…

「俺も教えてもらったところだからな…」
野宮は店内をキョロキョロと見回していた。

ん?
野宮は人に教えてもらったと言うことは、ここには来たことがなかったということか?

「野宮、ここに来たのって初めてなのか?」
「まあな」
野宮は『バレたか』とでもいう風に笑う。
「実は、ここである人と待ち合わせをしてて…って、あ!こっちです」
野宮が店の入り口から入ってきた二人組に手を振る。

‼︎‼︎

「蓮⁉︎!」
「真司⁉︎!」

店内に入ってきたのは、蓮と林だった。
蓮も真司も驚いて、一瞬固まり目を見開く。

「蓮、どうしてここに?」
「どうしてって、林さんに彼氏の事で相談があるから、行きつけの落ち着いた店で話したいって…って、真司はどうしてここに?」
「俺も落ち着いたところで話がしたいって、この店に…」

林さんは彼氏の相談。
野宮は仕事場では言えない相談…
!!
もしかして、それって…

「野宮、お前林さんと付き合ってるのか⁉︎」
蓮も同じことを思ったのか、林と野宮を交互に見る。
「違うよ…会うの今日が2回目」

今日が会うの2回目って…
どう言う事だ?


「チーフ、佐々木さん本当は彼氏について相談したいって事は嘘なんです…実はここにある人が来てて…もういいよ」
林が声を掛けると、店の奥のテーブルから誰か出てきた。

え⁉︎⁉︎

「椿!どうしてここに⁉︎」

店の奥から出てきたのは、この場所に似つかわない椿が、手を後ろに隠したまま蓮との真司の方に歩み寄ってきた。

「お兄ちゃん、真司さん、ご婚約おめでとうございます」
椿は背後から大きな花束を出し、蓮と真司に手渡す。

「‼︎」
「‼︎」

何が起きているのかわからない真司と蓮は椿からの花束を一緒に受け取り、お互いの顔を見合わせていると、奥のテーブルから拍手がおこり、そこで飲んでいた人達が真司と蓮の周りに集まってきた。

「松野⁉︎…‼︎姉さん⁉︎」
「大山くん⁉︎…‼︎義母さん⁉︎」

そこには松野と大山、真司の姉、蓮の義母がいた。

これって……
どう言う事だ?

「驚いた?」
椿は嬉しそうに情況が把握できず驚いたままの蓮との真司の顔を覗き込んだ。

「ああ、驚いた…椿これはどう言う事?」
蓮が現場が把握出来ないと、椿に問いかけた。

「今日はお兄ちゃんと真司さんの婚約サプライズパーティー。本当におめでとう。お兄ちゃん、真司さん」
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
椿は嬉しそうに蓮と真司の手を握ると、口々に蓮と真司に対するお祝いの言葉が投げかけられる。

「ありがとう…ありがとうございます!」
「ありがとうございます‼︎」
ようやく現状を把握した真司と蓮が心からのお礼を言った時、嬉しさから、二人の目には涙が溜まっていた。

「今から佐々木先輩から一言いただきたいと思います…先輩、お願いします」
と、言いながら松野が真司と蓮にシャンパンを手渡す。
「今日は俺たちのために、こんなに素敵なパーティーを企画、開催していただきありがとうございます。同性同士の婚約はなかなか認めてもらえないと思っていたので、こんな盛大に祝っていただき、本当に嬉しいです。ありがとうございました」
真司と蓮が皆んなに頭を深く下げると、また拍手があがる。
「それでは、お二人の末永いお幸せを願って…乾杯!」
「乾杯‼︎」
「乾杯‼︎」
松野の乾杯の音頭で店の中に『乾杯』と言う声と、グラスがあたる音が響いた。

店の中に食事が運ばれて、立食形式でパーティは進んでいった。

「今回はおめでとうございます」
林は真司と蓮にシャンパンを手渡した。
「チーフ、今回のサプライズ企画したの椿ちゃんなんですよ」
林が遠くで野宮と話している椿の方を見る。
「え!椿が⁉︎」
「実は私、椿ちゃんと同じ中高一貫校に行ってて、椿ちゃんは私の後輩になるんです」
「…椿、そんなこと一度も言った事がなかったから、知らなかったよ」
「後輩と言っても直接知ってたわけじゃないんです。私の後輩の後輩…遠いですけど、何回か遊んだことがあるぐらいで…でも、椿ちゃんは私の事覚えてくれてて、連絡くれたんです」
「そうだったんだね…でも、そんな事して、椿は父さんに怒られないか心配だよ…」
蓮は心配そうに椿を見つめた。
「それは心配ないと思いますよ」
「?」
蓮が不思議そうに首を傾げる。
「だって、ここを借りるお金も、今回かかった費用も、全部チーフのお父さんが出されてますし」
「‼︎」

え⁉︎それって蓮のお父さんは、蓮の事認めたってこと⁉︎⁉︎

「詳しい話しは椿ちゃん本人から聞いた方がいいですね…」
そう言うと、林は椿を真司と蓮の元に連れてきた。
「椿…この事、父さんが知ってるって本当か…?」
蓮はまだ信じられないという表情で椿に聞く。
「そうだよ。私とお母さんで説得したんだから。最初はね、全然話聞いてくれなかったんだけど、最終最後、お母さんが激怒してね…」
「…」
「『ご自分の偏見と、息子の幸せとどちらが大事なんですか⁉︎⁉︎』って…あの穏やかなお母さんがだよ」
「‼︎」
「‼︎」
蓮と真司が呆気にとられてるそばで、椿はその時のことを思い出したかのように、クスクスと笑い出した。
「それでお父さんも目が覚めたみたい。サプライズの事お父さんに相談したら、費用は全部出すって言い出したのお父さんなんだよ」
「…」
「それにね、お父さんが真司さんと家に遊びにおいでって…自分で言えばいいのに、それは恥ずかしいんだって…お父さんも可愛いところあるんだね」
椿が嬉しそうに笑う隣で、蓮の瞳からは次から次へと涙が溢れ、頬を伝っていった。
「蓮、よかったな…」
俯いたまま、涙を流している蓮の顔を真司の肩に引き寄せる。
「…うん…」
「またお父さんのいい日にいかせてもらおう…」
「うん」
蓮は力強く頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

守護獣騎士団物語 犬と羽付き馬

葉薊【ハアザミ】
BL
一夜にして養父と仲間を喪い天涯孤独となったアブニールは、その後十年間たったひとり何でも屋として生き延びてきた。 そんなある日、依頼を断った相手から命を狙われ気絶したところを守護獣騎士団団長のフラムに助けられる。 フラム曰く、長年の戦闘によって体内に有害物質が蓄積しているというアブニールは長期間のケアのため騎士団の宿舎に留まることになる。 気障な騎士団長×天涯孤独の何でも屋のお話です。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...