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誤解 ①
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ふぅ~と大きく優斗は深呼吸をする。
ガチャリと玄関のドアを開けた。室内は暗く、まだ健が帰ってきていないことを語っている。
キッチンに入ると、静かに電気ケトルのスイッチを入れた。ケトルが湯を沸かす音がし、優斗はハーブティーにTバックを冷蔵庫から取り出すと、食器棚からは自分のマグカップと、イニシャル入りのマグカップ二つを出し、テーブルに置く。
自分のカップにカモミールティーを淹れると、それを持ちソファーに座った。
部屋の電気はつけていない。
これからのこと、静かに考えたかったから。
これ飲んだら、健が帰ってくる前に荷物をまとめておかないと…。
このカップ…持っていってもいいかな?
キーケース…、置いていった方がいいかな?
健と選んだマグカップ。
『一緒に住もう』とプレゼントされたキーケース。
服は荷物になるから、持てる分だけにして、あとは処分してもらおう。
しばらく姉さんの家に住まわせてもらって、早く部屋をさがさないと…。
部屋の中をぐるりと見回すと、健との思い出が思い出され、辛くなるので優斗は瞳を閉じた。
健にさよなら言ったら、すぐに出ていこう…。
「よし…」
愛用していたカップを洗い、寝室に向かおうとした時、玄関のドアをガチャガチャと乱暴に開ける音がした。
!!
健が帰ってきた!
ドキッと緊張が体を巡る。
一瞬、逃げてしまいたくなったが、
逃げたらダメだ!
その場に留まった。
廊下を走る足音がする。
勢いよくドアが開けられ、部屋の電気がつけられ、健は優斗を見つけると、勢いよく優斗を抱きしめた。
抱きしめられると、優斗はとても早く脈打つ健の心音を感じる。
全速力で走ってきたような、健の荒い息づかいがする。
いつものように優しく抱きしめられるのではなく、離すまいとするように力強く抱きしめれる。
「健…」
優斗が呼びかけると、
「どこにも行くな…」
優斗を抱きしめる力が、さらに強くなる。
「健…、痛いよ…」
「!!ごめん…」
腕の力を緩めるが、優斗を抱きしめたままだ。
「健、苦しい…」
胸が痛くて苦しい…。
この体温を感じられるのも、今日までだ。
「離して…」
優斗は健の胸から抜け出そうとするが、
「離さない!離したら優斗、いなくなりそうだ」
健は優斗を離さない。
「優斗が悩んだりく、苦しんだり、悲しんだりしてたのに…、一番近くにいたのに気付いてやれなくてごめん!俺、鈍いから優斗に何があったか、わからない。だから教えてほしい!こんな頼りない俺だけど、俺は優斗のことが一番大事なんだ!」
健の声は震えている。
「健の一番大事な人は俺じゃない。有馬さんだよ…」
声を振り絞って言ったが、優斗の声は消え入りそうだ。
「…え…?」
健の腕の力が緩む。
その隙に、優斗はするりと健の腕の中から向け出した。
「健、もう隠さなくていいんだよ」
次々に流れ出す涙を、服の袖でゴシゴシと拭く。
「有馬さんと健がよりを戻すの…俺、知ってるんだ…。俺、邪魔するつもりはないよ。この部屋も出ていく。だから俺のことは気にしないで。健、幸せになって…」
優斗は健に話を挟む隙を作らないように、一気に話た。
ああ、言ってしまった…。
これで本当にさよならだ…。
ガチャリと玄関のドアを開けた。室内は暗く、まだ健が帰ってきていないことを語っている。
キッチンに入ると、静かに電気ケトルのスイッチを入れた。ケトルが湯を沸かす音がし、優斗はハーブティーにTバックを冷蔵庫から取り出すと、食器棚からは自分のマグカップと、イニシャル入りのマグカップ二つを出し、テーブルに置く。
自分のカップにカモミールティーを淹れると、それを持ちソファーに座った。
部屋の電気はつけていない。
これからのこと、静かに考えたかったから。
これ飲んだら、健が帰ってくる前に荷物をまとめておかないと…。
このカップ…持っていってもいいかな?
キーケース…、置いていった方がいいかな?
健と選んだマグカップ。
『一緒に住もう』とプレゼントされたキーケース。
服は荷物になるから、持てる分だけにして、あとは処分してもらおう。
しばらく姉さんの家に住まわせてもらって、早く部屋をさがさないと…。
部屋の中をぐるりと見回すと、健との思い出が思い出され、辛くなるので優斗は瞳を閉じた。
健にさよなら言ったら、すぐに出ていこう…。
「よし…」
愛用していたカップを洗い、寝室に向かおうとした時、玄関のドアをガチャガチャと乱暴に開ける音がした。
!!
健が帰ってきた!
ドキッと緊張が体を巡る。
一瞬、逃げてしまいたくなったが、
逃げたらダメだ!
その場に留まった。
廊下を走る足音がする。
勢いよくドアが開けられ、部屋の電気がつけられ、健は優斗を見つけると、勢いよく優斗を抱きしめた。
抱きしめられると、優斗はとても早く脈打つ健の心音を感じる。
全速力で走ってきたような、健の荒い息づかいがする。
いつものように優しく抱きしめられるのではなく、離すまいとするように力強く抱きしめれる。
「健…」
優斗が呼びかけると、
「どこにも行くな…」
優斗を抱きしめる力が、さらに強くなる。
「健…、痛いよ…」
「!!ごめん…」
腕の力を緩めるが、優斗を抱きしめたままだ。
「健、苦しい…」
胸が痛くて苦しい…。
この体温を感じられるのも、今日までだ。
「離して…」
優斗は健の胸から抜け出そうとするが、
「離さない!離したら優斗、いなくなりそうだ」
健は優斗を離さない。
「優斗が悩んだりく、苦しんだり、悲しんだりしてたのに…、一番近くにいたのに気付いてやれなくてごめん!俺、鈍いから優斗に何があったか、わからない。だから教えてほしい!こんな頼りない俺だけど、俺は優斗のことが一番大事なんだ!」
健の声は震えている。
「健の一番大事な人は俺じゃない。有馬さんだよ…」
声を振り絞って言ったが、優斗の声は消え入りそうだ。
「…え…?」
健の腕の力が緩む。
その隙に、優斗はするりと健の腕の中から向け出した。
「健、もう隠さなくていいんだよ」
次々に流れ出す涙を、服の袖でゴシゴシと拭く。
「有馬さんと健がよりを戻すの…俺、知ってるんだ…。俺、邪魔するつもりはないよ。この部屋も出ていく。だから俺のことは気にしないで。健、幸せになって…」
優斗は健に話を挟む隙を作らないように、一気に話た。
ああ、言ってしまった…。
これで本当にさよならだ…。
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