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卓の兄 ②
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「卓は今まで恋人はいても、卓が好きになる人とはいなかったんだよ」
「恋人がいても、好きになる人はいなかったんですか?」
「そうなんだ。でも誤解しないでやってほしい。どの恋人とも向き合って、大切にしてたんだ。でも俺からしたら、卓は心の底から好きな人と出会ってないと思ったんだ」
「…」
「でも研修で優斗くんと出会ってからは、ずっと優斗くんの話ばかり」
「俺の…話ばっかり…?それは同性のBAは珍しかっただけじゃないかと…」
「それだけじゃないと思う」
どう言う意味?
優斗は持ったままのコーヒーをソーサーに置く。
「優斗くんの『こんなところが凄い』とか、『いつもがんばっていて、努力家なんだ』『何があってもめげない』とか…『もっと色々知りたい』『そばにいたい』って。『こんな気持ちははじめてだ』って。嬉しそうにはなしていたよ」
「…」
「再会出来た時は、俺が驚くほど喜んでたし、長野さんと優斗くんがお付き合いをしているって気付いた時、凄く落ち込んで…。でも優斗くんの幸せが一番だって…。卓にもそんな感情があるって、兄として俺も嬉しかった」
「…」
「卓は俺にとって大切な弟だし、初めて好きになった人と幸せになって欲しいと思ってる。もう卓の辛そうな顔は見たくない」
「!!」
俺が卓を傷つけていた…。
卓が優しいからって、卓に頼りきっていた。
自分のことしか考えていなかったことが、優斗は恥ずかしかった。
「でも卓が本当に望んでいることは、優斗くん、君の幸せなんだ。たとえ自分が隣に居られなくても、優斗くんの笑顔を見たいんだと思うよ。卓は優斗くんを笑顔にできないことのもどかしさと、一番優斗くんのそばに居られる恋人さんが、優斗くんを悲しませていることに苛立ってるんだと思う」
「…」
「今回、優斗くんと恋人さんとの間になにがあったか俺は知らない。でも、優斗くんは優斗くんが幸せになることだけを、考えたらいいんだよ。自分がいることで、誰かが不幸になるとか、自分がいなくなれば誰かが幸せになるとか、関係ないんだよ」
俺自身が幸せになることだけ?
俺は本当はどうしたい?
「…………」
優斗は黙ってしまった。
俺は健に幸せになってほしい。
そばにいられるのが俺じゃなくても、健が幸せであれば…。
でも、俺は……。
「…。健のそばに…いたい…」
優斗の瞳から涙が溢れた。
でも今のままも、何もしないのも、何も聞かないのも、知らないフリも嫌だ。
「どんな結果になるかわかりませんが、一度、きちんと話、してきます」
優斗は出してもらったコーヒーに砂糖を二つ入れ、一気に飲み干す。
「本当にありがとうございました!」
「頑張って」
優斗は一礼すると駆け出す。
もう迷いはなかった。
「恋人がいても、好きになる人はいなかったんですか?」
「そうなんだ。でも誤解しないでやってほしい。どの恋人とも向き合って、大切にしてたんだ。でも俺からしたら、卓は心の底から好きな人と出会ってないと思ったんだ」
「…」
「でも研修で優斗くんと出会ってからは、ずっと優斗くんの話ばかり」
「俺の…話ばっかり…?それは同性のBAは珍しかっただけじゃないかと…」
「それだけじゃないと思う」
どう言う意味?
優斗は持ったままのコーヒーをソーサーに置く。
「優斗くんの『こんなところが凄い』とか、『いつもがんばっていて、努力家なんだ』『何があってもめげない』とか…『もっと色々知りたい』『そばにいたい』って。『こんな気持ちははじめてだ』って。嬉しそうにはなしていたよ」
「…」
「再会出来た時は、俺が驚くほど喜んでたし、長野さんと優斗くんがお付き合いをしているって気付いた時、凄く落ち込んで…。でも優斗くんの幸せが一番だって…。卓にもそんな感情があるって、兄として俺も嬉しかった」
「…」
「卓は俺にとって大切な弟だし、初めて好きになった人と幸せになって欲しいと思ってる。もう卓の辛そうな顔は見たくない」
「!!」
俺が卓を傷つけていた…。
卓が優しいからって、卓に頼りきっていた。
自分のことしか考えていなかったことが、優斗は恥ずかしかった。
「でも卓が本当に望んでいることは、優斗くん、君の幸せなんだ。たとえ自分が隣に居られなくても、優斗くんの笑顔を見たいんだと思うよ。卓は優斗くんを笑顔にできないことのもどかしさと、一番優斗くんのそばに居られる恋人さんが、優斗くんを悲しませていることに苛立ってるんだと思う」
「…」
「今回、優斗くんと恋人さんとの間になにがあったか俺は知らない。でも、優斗くんは優斗くんが幸せになることだけを、考えたらいいんだよ。自分がいることで、誰かが不幸になるとか、自分がいなくなれば誰かが幸せになるとか、関係ないんだよ」
俺自身が幸せになることだけ?
俺は本当はどうしたい?
「…………」
優斗は黙ってしまった。
俺は健に幸せになってほしい。
そばにいられるのが俺じゃなくても、健が幸せであれば…。
でも、俺は……。
「…。健のそばに…いたい…」
優斗の瞳から涙が溢れた。
でも今のままも、何もしないのも、何も聞かないのも、知らないフリも嫌だ。
「どんな結果になるかわかりませんが、一度、きちんと話、してきます」
優斗は出してもらったコーヒーに砂糖を二つ入れ、一気に飲み干す。
「本当にありがとうございました!」
「頑張って」
優斗は一礼すると駆け出す。
もう迷いはなかった。
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