愛され南田くんは、寂しがり屋の甘えたです 〜無自覚甘えたが止まりません〜

卓の兄 ①

　卓がバーの休憩室に1人残った優斗は、ソファーの背に体をもたれかからせ、天井を仰いだ。
　何もする気がしない。無気力だ。

健は俺と一緒にいない方が、幸せになるんだよね。
有馬さんと一緒にいられるんだよね。
健は優しいから、自分から別れを告げないようにしているだけなんだ…。
俺が気付いてあげないと。
健が有馬さんと一緒になれるようにしないと。
『おめでとう』って言えるかな？
ペアリング。次は結婚指輪になったりするのかな？

ここに、いつまでもいられない。
帰らないとお店の迷惑になってしまう。
でも……、健との思い出がいっぱいの部屋には戻りたくない。
思い出してしまう。
楽しかった思い出。

「もう健との楽しい思い出…、作っていけないんだ…」
　これからの生活に健がいないと思うと、辛くて、悲しくて、苦しくて…。
　目の前の世界に色がなくなってしまったようだった。

　するとそこに卓の兄がコーヒーを持ってやってきた。
「どう？落ち着いた？」
　ソファー前のローテーブルの上にコーヒーを置かれ、優斗は慌てて座り直す。
「ここ家だと思って。そんなにかしこまらなくて、いいよ」
　優しく微笑んだ顔が卓そっくりで、優斗の気持ちは綻んだ。
「冷めないうちに、どうぞ」
　再びコーヒーを進められ、優斗がカップに手を伸ばすと、

あ…。

　ソーサーに角砂糖が二つ添えてあった。
「卓が、優斗くんは砂糖二つって言ってたから」

卓、俺がコーヒー飲むとき、砂糖二つって知っててくれたんだ。
それをわざわざお兄さんに伝えてたなんて…。

　コーヒーを持つ優斗の手が止まった。
「卓に怒られそうだけど…、優斗くんの隣、いい？」
「はい…」
　にこりと司は笑うと、優斗の隣に座った。
「ちょっとだけ、卓の話してもいい？」
「はい…」