上 下
243 / 269

指輪 ①

しおりを挟む
「南田くん、また来るね」
「はい!お待ちしています」
 そう言い、優斗は化粧品が入った紙袋を持った女性を見送った。
 健の実家に行った日から数日経った。
 優斗はあれから色々と考え込んでしまい、あまりぐっすり眠れない日々が続いていた。
 クマが少しできてしまい、コンシーラーで隠し、元気に振る舞うが体力的なものか、精神的なものか倦怠感が体を覆い、一つひとつの動作が重く億劫に感じられる。
 健と毎日顔を合わせるが、何も悟られないように、いつも以上に元気に振る舞い、1人になるとまた考え込んでしまうので、仕事に没頭する。
 それを繰り返す日々。
 健もコラボ企画が詰めの段階にきて、優斗と健が店で一緒に仕事をすることは、さらに減った。

「南田くん、もう上がり時間、だいぶ過ぎちゃってるよ。そこの書類の片付けは私がしておくから。今日はもうあがってね」
 綾にそう言われ時間を確認すると、優斗の上がり時間を回っていた。
「あ、はい!お先に失礼します」
 そう言い、優斗は店を後にし、帰る準備を整え、百貨店を出る。

今、家に帰っても1人だし…。
帰りたくないな…。

 優斗は駅には向かわず、とぼとぼ歩き出す。

前から気になってたカフェにでも行ってみようかな?
確かこの辺にあったと思うんだけどな…。

 あたりをキョロキョロしながら歩いていくと、

あった!

 白いタイルの壁に木製の木枠の窓。大きな窓からは中の様子やカウンターの様子がよく見えた。

 満席なのかな?

 離れた場所から店内の様子を見ていた優斗の目に、ある人達が目に飛び込んできた。

健と有馬さん!?

 外を眺められるように設置されているカウンターに隣り合って座る、健と有馬の姿があった。
 2人は何やら楽しそうに話、時折笑い合う。
 そして次の瞬間、

!!!!!
そんな……。

 優斗は優美の左手薬指に、光る指輪を見つけてしまった。

そんな………。

 その場に崩れ落ちそうになったが、どうにか食い止める。
 健が優美の指輪を指差すと、嬉しそうに優美はその指輪を見つめ、健に見せた。

そんな……。
そんな……。
そんな……。

 楽しそうに笑い合う2人の姿が、優斗の目に焼き付き離れない。
 その場から駆け出したいのに、足が動かない。
 ただ2人の姿を見続けている。

そんな……。
健……、そんな……。

 胸が苦しくなって、涙が溢れた。
 
健…、有馬さんに指輪、プレゼントしたんだ…。

 苦しくて、悲しくて…。
 
もう見たくない!!

 優斗が動かない足を何度も叩き、足が動き出した途端、その場から走り去った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

処理中です...