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カーチャが去って、私も旦那様の屋敷を改めて去ることとした。もはや未練はない。私は行く宛てがなくなった。このまま死んでしまってもいいが……もう一回修道院に戻ってもいいかな、なんて思った。
修道院は常に行き場を失った人々を受け入れてくれる場所だから……考えてみればそこにカーチャがいても不思議ではなかった。
「アンナ様!」
カーチャが私がやって来るのを予想していたのか。色々と準備をしていたみたい。
「あなたもここにやって来たの?」
「ええ、アンナ様と同じように……私も居場所がありませんから。ここにいる人々は皆似ていますからね。少しでも子供たちのためになれば……なんて考えまして」
「それはいいことね……」
カーチャは清々しい表情を浮かべた。
「ああ、そう言えば、チャールズ様一家のことなんですけどね。アンナ様、知っていますか?」
「今更、興味ないわよ。あなたは、何か知っているの?」
「知っているも何も……公爵家の爵位が失効したそうですよ」
爵位の失効……聞いたことはあるが、実際にそうなった例を把握していなかった。
「そんなことが、現実に起こり得るなんてね…」
「あれっ、アンナ様?喜ばないのですか?」
「喜ぶ?どうして?」
「だって、アンナ様の宿敵である公爵家が無くなったんですよ?」
「…人の不幸を笑っても仕方ないでしょう?」
「アンナ様…だから、あなた様はあんなろくでもない連中の餌食になってしまったんですよ?」
「あら、そうなの?」
「ああっ…でもまあ、アンナ様みたいな貴族が増えれば…この世界はもう少しましになるのかもしれませんね」
後日、この一件にカーチャが関わっていたことを知った。つまり、子供が出来ないからと言って迫害したり、子供が死んでしまったことを母親の責任とするなど、様々な横暴を暴露してしまったのだ。
貴族界でも、女性蔑視を改善する機運が盛り上がっているので、こうした世論が後押しになり、旦那様一家は貴族として不適格と認定されたわけだった。
「ああ、そう言えば…あの例のお母様とか…行き場を失ったら、この修道院に来るかもしれませんね?」
カーチャがこう言うと、私はすぐさま、「それだけは無理!」と答えた。
「あらあら、優しいアンナ様にも許可できないことがあるんですね…」
カーチャは笑った。結果として、この地で安らかに過ごすことが私にとってはいいのだと思えた。
「では、今日も張り切っていきましょう!」
カーチャの明るい掛け声とともに、満ち足りた1日が始まろうとしていた…。
修道院は常に行き場を失った人々を受け入れてくれる場所だから……考えてみればそこにカーチャがいても不思議ではなかった。
「アンナ様!」
カーチャが私がやって来るのを予想していたのか。色々と準備をしていたみたい。
「あなたもここにやって来たの?」
「ええ、アンナ様と同じように……私も居場所がありませんから。ここにいる人々は皆似ていますからね。少しでも子供たちのためになれば……なんて考えまして」
「それはいいことね……」
カーチャは清々しい表情を浮かべた。
「ああ、そう言えば、チャールズ様一家のことなんですけどね。アンナ様、知っていますか?」
「今更、興味ないわよ。あなたは、何か知っているの?」
「知っているも何も……公爵家の爵位が失効したそうですよ」
爵位の失効……聞いたことはあるが、実際にそうなった例を把握していなかった。
「そんなことが、現実に起こり得るなんてね…」
「あれっ、アンナ様?喜ばないのですか?」
「喜ぶ?どうして?」
「だって、アンナ様の宿敵である公爵家が無くなったんですよ?」
「…人の不幸を笑っても仕方ないでしょう?」
「アンナ様…だから、あなた様はあんなろくでもない連中の餌食になってしまったんですよ?」
「あら、そうなの?」
「ああっ…でもまあ、アンナ様みたいな貴族が増えれば…この世界はもう少しましになるのかもしれませんね」
後日、この一件にカーチャが関わっていたことを知った。つまり、子供が出来ないからと言って迫害したり、子供が死んでしまったことを母親の責任とするなど、様々な横暴を暴露してしまったのだ。
貴族界でも、女性蔑視を改善する機運が盛り上がっているので、こうした世論が後押しになり、旦那様一家は貴族として不適格と認定されたわけだった。
「ああ、そう言えば…あの例のお母様とか…行き場を失ったら、この修道院に来るかもしれませんね?」
カーチャがこう言うと、私はすぐさま、「それだけは無理!」と答えた。
「あらあら、優しいアンナ様にも許可できないことがあるんですね…」
カーチャは笑った。結果として、この地で安らかに過ごすことが私にとってはいいのだと思えた。
「では、今日も張り切っていきましょう!」
カーチャの明るい掛け声とともに、満ち足りた1日が始まろうとしていた…。
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