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前編

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「ああ、美しきユフィーよ!私は今まで君のことを愛してきた。そんな日々を一生忘れないだろう!」

帝国の王子であり、私の婚約者であったハンフリー様がそう言いました。

私のことを愛していた、これは確かにそうなのでしょう。しかしながら、今は違います。ハンフリー様のお隣には、私よりも格段と美しいお嬢様がいらっしゃいます。そして、ハンフリー様にしがみついて、

「かっこいいですわ!」

なんて、言っちゃっています。私ユフィーがハンフリー様の元に嫁ぐと決まったのは、今から五年くらい前のことです。私はとりあえず、名もない普通の令嬢だったんですが、確か、パーティーで出会ったのが最初でしたね。ハンフリー様が私の姿を見るなり、

「どうか、私の妻になってください」

といきなりプロポーズしてきました。私はもちろん断ったのですが、ハンフリー様はずっとずっと私の側を付きまとっていました。そして、鬱陶しくなった私はちょうど一か月くらい前に、

「分かりました」

と言って承諾しました。ハンフリー様は大層喜んでおられました。私もそれまでは人間の恋という感情がいまいちよく分からなかったのですけれども、その時分かりました。

そんな恋が、このような形で終わってしまうとは……人間の恋なんて、一瞬の産物であり、簡単に崩壊してしまうんだなと思いました。

「だが、君は私のことをちっとも愛してくれなかった!」

まあ確かに、ほぼ五年間素っ気ない態度を取り続けてきましたから?それはそうです。

でも、先に婚約の意志を表明したのは、ハンフリー様の方じゃないですか?ストーカーみたいにつきまとって、でも、なんとなく愛してくれる気がして、それで婚約に合意した途端、今度は掌を返すように婚約破棄ですか?冗談じゃありませんよ。

「さあ、婚約破棄することにしよう!」

「承知いたしました」

「なにぃ…………?」

ハンフリー様は驚きました。逆に私も驚きました。

「ユフィー……本当に婚約破棄するのか?」

「はい?しないんですか?」

「する?ああっ……まあ、するんだけどさ……そんなに簡単に納得しちゃうわけ?」

「何が言いたいんですか?」

段々腹が立ってきて、つい怒鳴ってしまいました。ひょっとして、本当は婚約破棄なんてしたくないのでしょうか?

「ハンフリー様!」

可愛いお嬢様が、ハンフリー様のシャツの裾をしきりに引っぱりました。お嬢様、きっとその男と婚約しても幸せにはなれませんよ……なんて言いたかったです。余計なお世話ですか?



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