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復讐を果たし終えた世界で嵐は自然に消滅、私は元の姿に戻った。
「随分と派手にやったものだね……」
王宮の痕跡にはアリのように人々が群がっていた。
「ありがとうございました」
「この先も聖女を続けるのかな?」
神様は期待していたのだろう。私は断った。
「これ以上、予期された人生を歩むのは嫌なので……世界のためとかどうでもいいんで……」
「それは残念だな……」
研究者であるフンボルトがもしかしたら、ひとまず聖女の代行になるかも……なんて、神様が噂していた。フンボルトははしゃいでいた。私は思いっきり睨み付けてやった。
「もう二度と私の前に現れないでね」
「人の家を壊しておいて、そんなこと言っていいんですかあっ?」
フンボルトは少し余裕ぶっていた。私は苦笑いを浮かべて、「刺し違えてでも、あなたを葬り去る覚悟はあるからね?」と答えた。
フンボルトはぎょっとした。私は小さく手を振って、一人歩き始めた。人生の目標を失い、行く宛てもなく、かといってすぐ死ぬことも出来ない、数奇な運命……もう少し続けないといけないみたいだった。
聖女を辞めても、神様の呟きは聞こえてくる。やっぱり、辞めることは出来ないのか。
「ソフィア……」
私のことを呼ぶ声がもう一つ……変わり果てたロベルトであった。
私がなんとなく救ったのはロベルトだけだった。
「随分とみすぼらしくなったわね……」
「全部君の仕業なのかい?」
「さあ、どうでしょうね……」
ロベルトは無言で泣き崩れる。全てを失った男の末路……仕方がないよね。
私を追い込んだ皆が悪いんだから。
「もう一度やり直すことは出来ないか?」
私は溜息をついた。一度は好きになった婚約者……良い具合に期待を裏切ってくれて、私の人生を滅茶苦茶にした共謀犯……でも、不思議に命だけは救いたいと思った。
「あなたって、やっぱりバカな人……」
ロベルトはしばらく私の後を追いかけた。母親を追いかける子犬のように。力も貯えも底をついているはずなのに、私は永遠に広大な大地を歩き続けることが出来た。
もう一度振り返ると、視界にロベルトはいなかった。どこかで倒れたのだろう。可哀想に。
私は一人で歩き続けた。そのうち、神様の声は聞こえなくなった。いよいよ力尽きて、ある大木の下に寝そべった。神様に私の声が届くのか……そんなことは分からなかったけれども。
「もう終わりでいいですよね?」
最後は……多分笑っていたのだろう。静かに目を閉じた。
そこは夢ではなく何もない、それでいて優しい世界だった。
「随分と派手にやったものだね……」
王宮の痕跡にはアリのように人々が群がっていた。
「ありがとうございました」
「この先も聖女を続けるのかな?」
神様は期待していたのだろう。私は断った。
「これ以上、予期された人生を歩むのは嫌なので……世界のためとかどうでもいいんで……」
「それは残念だな……」
研究者であるフンボルトがもしかしたら、ひとまず聖女の代行になるかも……なんて、神様が噂していた。フンボルトははしゃいでいた。私は思いっきり睨み付けてやった。
「もう二度と私の前に現れないでね」
「人の家を壊しておいて、そんなこと言っていいんですかあっ?」
フンボルトは少し余裕ぶっていた。私は苦笑いを浮かべて、「刺し違えてでも、あなたを葬り去る覚悟はあるからね?」と答えた。
フンボルトはぎょっとした。私は小さく手を振って、一人歩き始めた。人生の目標を失い、行く宛てもなく、かといってすぐ死ぬことも出来ない、数奇な運命……もう少し続けないといけないみたいだった。
聖女を辞めても、神様の呟きは聞こえてくる。やっぱり、辞めることは出来ないのか。
「ソフィア……」
私のことを呼ぶ声がもう一つ……変わり果てたロベルトであった。
私がなんとなく救ったのはロベルトだけだった。
「随分とみすぼらしくなったわね……」
「全部君の仕業なのかい?」
「さあ、どうでしょうね……」
ロベルトは無言で泣き崩れる。全てを失った男の末路……仕方がないよね。
私を追い込んだ皆が悪いんだから。
「もう一度やり直すことは出来ないか?」
私は溜息をついた。一度は好きになった婚約者……良い具合に期待を裏切ってくれて、私の人生を滅茶苦茶にした共謀犯……でも、不思議に命だけは救いたいと思った。
「あなたって、やっぱりバカな人……」
ロベルトはしばらく私の後を追いかけた。母親を追いかける子犬のように。力も貯えも底をついているはずなのに、私は永遠に広大な大地を歩き続けることが出来た。
もう一度振り返ると、視界にロベルトはいなかった。どこかで倒れたのだろう。可哀想に。
私は一人で歩き続けた。そのうち、神様の声は聞こえなくなった。いよいよ力尽きて、ある大木の下に寝そべった。神様に私の声が届くのか……そんなことは分からなかったけれども。
「もう終わりでいいですよね?」
最後は……多分笑っていたのだろう。静かに目を閉じた。
そこは夢ではなく何もない、それでいて優しい世界だった。
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