21 / 21
21
しおりを挟む
復讐を果たし終えた世界で嵐は自然に消滅、私は元の姿に戻った。
「随分と派手にやったものだね……」
王宮の痕跡にはアリのように人々が群がっていた。
「ありがとうございました」
「この先も聖女を続けるのかな?」
神様は期待していたのだろう。私は断った。
「これ以上、予期された人生を歩むのは嫌なので……世界のためとかどうでもいいんで……」
「それは残念だな……」
研究者であるフンボルトがもしかしたら、ひとまず聖女の代行になるかも……なんて、神様が噂していた。フンボルトははしゃいでいた。私は思いっきり睨み付けてやった。
「もう二度と私の前に現れないでね」
「人の家を壊しておいて、そんなこと言っていいんですかあっ?」
フンボルトは少し余裕ぶっていた。私は苦笑いを浮かべて、「刺し違えてでも、あなたを葬り去る覚悟はあるからね?」と答えた。
フンボルトはぎょっとした。私は小さく手を振って、一人歩き始めた。人生の目標を失い、行く宛てもなく、かといってすぐ死ぬことも出来ない、数奇な運命……もう少し続けないといけないみたいだった。
聖女を辞めても、神様の呟きは聞こえてくる。やっぱり、辞めることは出来ないのか。
「ソフィア……」
私のことを呼ぶ声がもう一つ……変わり果てたロベルトであった。
私がなんとなく救ったのはロベルトだけだった。
「随分とみすぼらしくなったわね……」
「全部君の仕業なのかい?」
「さあ、どうでしょうね……」
ロベルトは無言で泣き崩れる。全てを失った男の末路……仕方がないよね。
私を追い込んだ皆が悪いんだから。
「もう一度やり直すことは出来ないか?」
私は溜息をついた。一度は好きになった婚約者……良い具合に期待を裏切ってくれて、私の人生を滅茶苦茶にした共謀犯……でも、不思議に命だけは救いたいと思った。
「あなたって、やっぱりバカな人……」
ロベルトはしばらく私の後を追いかけた。母親を追いかける子犬のように。力も貯えも底をついているはずなのに、私は永遠に広大な大地を歩き続けることが出来た。
もう一度振り返ると、視界にロベルトはいなかった。どこかで倒れたのだろう。可哀想に。
私は一人で歩き続けた。そのうち、神様の声は聞こえなくなった。いよいよ力尽きて、ある大木の下に寝そべった。神様に私の声が届くのか……そんなことは分からなかったけれども。
「もう終わりでいいですよね?」
最後は……多分笑っていたのだろう。静かに目を閉じた。
そこは夢ではなく何もない、それでいて優しい世界だった。
「随分と派手にやったものだね……」
王宮の痕跡にはアリのように人々が群がっていた。
「ありがとうございました」
「この先も聖女を続けるのかな?」
神様は期待していたのだろう。私は断った。
「これ以上、予期された人生を歩むのは嫌なので……世界のためとかどうでもいいんで……」
「それは残念だな……」
研究者であるフンボルトがもしかしたら、ひとまず聖女の代行になるかも……なんて、神様が噂していた。フンボルトははしゃいでいた。私は思いっきり睨み付けてやった。
「もう二度と私の前に現れないでね」
「人の家を壊しておいて、そんなこと言っていいんですかあっ?」
フンボルトは少し余裕ぶっていた。私は苦笑いを浮かべて、「刺し違えてでも、あなたを葬り去る覚悟はあるからね?」と答えた。
フンボルトはぎょっとした。私は小さく手を振って、一人歩き始めた。人生の目標を失い、行く宛てもなく、かといってすぐ死ぬことも出来ない、数奇な運命……もう少し続けないといけないみたいだった。
聖女を辞めても、神様の呟きは聞こえてくる。やっぱり、辞めることは出来ないのか。
「ソフィア……」
私のことを呼ぶ声がもう一つ……変わり果てたロベルトであった。
私がなんとなく救ったのはロベルトだけだった。
「随分とみすぼらしくなったわね……」
「全部君の仕業なのかい?」
「さあ、どうでしょうね……」
ロベルトは無言で泣き崩れる。全てを失った男の末路……仕方がないよね。
私を追い込んだ皆が悪いんだから。
「もう一度やり直すことは出来ないか?」
私は溜息をついた。一度は好きになった婚約者……良い具合に期待を裏切ってくれて、私の人生を滅茶苦茶にした共謀犯……でも、不思議に命だけは救いたいと思った。
「あなたって、やっぱりバカな人……」
ロベルトはしばらく私の後を追いかけた。母親を追いかける子犬のように。力も貯えも底をついているはずなのに、私は永遠に広大な大地を歩き続けることが出来た。
もう一度振り返ると、視界にロベルトはいなかった。どこかで倒れたのだろう。可哀想に。
私は一人で歩き続けた。そのうち、神様の声は聞こえなくなった。いよいよ力尽きて、ある大木の下に寝そべった。神様に私の声が届くのか……そんなことは分からなかったけれども。
「もう終わりでいいですよね?」
最後は……多分笑っていたのだろう。静かに目を閉じた。
そこは夢ではなく何もない、それでいて優しい世界だった。
33
お気に入りに追加
138
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説


【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
いつの間にかの王太子妃候補
しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。
遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。
王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。
「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」
話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。
話せるだけで十分幸せだった。
それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。
あれ?
わたくしが王太子妃候補?
婚約者は?
こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*)
アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。
短編です、ハピエンです(強調)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!
しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる