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「彼は全て自業自得なのだ……」

サイクリック様の言葉……皇帝陛下に投げかけられた言葉だそうです。

「ランゲルハンス殿に説諭を試みたが、それは全て無駄だったようだ……」

「その件につきましては、全て承知しております。しかしながら……」

「そのような人間を助けて、一体この世界になんの得があると言うのかね???私はないと考えるのだが……」

「サイクリック様のお考えはよく分かります。しかしながら……そんな愚か者であっても、たった一人の愚息なのです。なんとか、あなた様のお力添えをいただくことはできないでしょうか……」

「であるからして、この世界に何か得をもたらすのか???」

「いいえ、そのような議論をしたいわけではございません。私はただ、一人の親として死に至る愚息を救いたいと切に願っているわけでございます……それは……人の道に則る行いだとは思いませんか???」

「……聞こえはいいが、あなたも結局のところは人間の道理と上辺だけのきれいごとを並べているだけではないのかな???」

サイクリック様の追及は非常に鋭かった……正直な話、内面では皇帝陛下もランゲルハンス様のことを厄介者扱いしていた時期がありました。後にお父様から聞いた話ではございますが、私マリアとの婚約が破談になってしまったと言うのは、王家にとって大いなる損失を意味していたわけなのです。この世界の経済をほぼ牛耳っている我が公爵家の面子を潰すということは、王家の財政的な基盤が脆くなってしまうということ、それは非常に不味いことだったのです。でも、ランゲルハンス様は自分の欲求にのみ正直でした。ですから、私と別れて、私よりも格段に魅力的な女、エリザベートを選んだわけなのです。

そんなエリザベートももはや、ランゲルハンス様と同じ不治の病におかされているのだとか。ひょっとしたら、これはサイクリック様の祟りなのかもしれないと私は思いました。

サイクリック様がこの世界で神のように振る舞うのだとしたら、それを達成するために余計な人間を排除する。エリザベートやランゲルハンス様のような人間はこの世界から排除したい。もちろん、彼が何を考えているのか知りませんでしたけれども、そう言う考え方だってできたわけなのです。まあ、それが現実だとしたら非常に怖い話なのですがね。

「なあ、マリア君。力をかしてくれないだろうか???」

皇帝陛下は私に頭を下げました。人々はまた噂話を始めました。公衆の面前で皇帝陛下が臣下に頭を下げる……ある意味では王家の面子を捨ててまで愚息を助けたいという思いだったのでしょうか。

「1日だけ時間を下さいませんか???」

ともすれば、私がいま、圧倒的に優位な立場にあるということなのです。あの時のランゲルハンス様に復讐するとしたら……今しかないのです……。

「とりあえず、父と話し合います……」

そう言うことにしておいて、私はどこか別の世界に行く……完璧ではありませんか???

皇帝陛下は非常にヤキモキなさっていました。でも、彼には決定権など最初からなかったのです。ランゲルハンス様と婚約者エリザベートの命は紛れもなく私の手に委ねられたのでした。
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