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その19
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「娘さんの様子はどうだったかね?」
「ああ、おかげですっかり細くなってしまったよ」
「気の毒になぁ……年頃の娘の気の迷いってやつにやらてのかねえ……」
「お互い大変だな……」
ボアジエ公爵はホフマン公爵と夕食を共にしていた。
「カモ肉のステーキ……確か、君の好物だったろう?」
「ああ、これはなかなかの絶品だな」
「ゴート地方から直接取り寄せたんだ。口に合って何よりだよ」
「そして……君は私に頼みごとがあるというわけか?娘さんのことかね?」
「言うまでもないね。ご名答だ。昔ならば、取引なんてする間柄ではなかった。私たちは友達だったな……」
「昔話はいいさ。君の気持は分からないでもない。私も父親だ。娘さんの罪を少しでも軽くしたいと躍起になるのは当然のことだ。だが……婚約者に毒を盛る、しかも相手が王子様ときたら、これはそう簡単な話じゃないな。いくら旧友の頼みと言ってもね……」
「どこまで軽くすることができるんだ?」
「そうだな……裁量で死刑回避は可能だろう。ただ……努力して流刑かな?それくらいが限度だろうな……」
「流刑……仕方がないな……」
ボアジエ公爵は、一度ポケットの奥に仕舞いこんだ薬草を取り出そうとした。
「煙草がきれたみたいだ。下でもらってくるよ」
「そうか?ごゆっくりどうぞ」
ボアジエ公爵は決断することができなかった。娘が大事であるのは当然なのだが、かといってこのままホフマン公爵を殺めていいのか、これは非常に重大な問題だった。
「時代は変われど……私たちは永遠に友達でいることを誓い合ったな……。マリア……私は今から友達を殺そうとしているんだ。これは……許されることだろうか?」
受付でコップをもらい、水を汲んだ。ホフマン公爵に飲ませるつもりだった。そして、自分で調合した薬を水に溶かしこんだ。酔っぱらった舞踏家のように、手元が大きく波打っていた。
ガチャンと大きな音を立てて、コップが地面に落ちた。
「お客様!大丈夫ですか?」
「ああっ……大丈夫だ……」
ボアジエ公爵は、床に散らばった水とまだ溶け切らずにばらまかれた白粉を、足で思いっきり踏みつけた。
「どうして、私は薬師なんだろうか?どうして、私は友達に裏切られるのだろうか?どうして私は……これほどチキンなんだ?これじゃ、いつまでたってもあの日から進めないじゃないか……」
ボアジエ公爵は、思う存分笑った。自分がこれほど惨めだと思えば、余計に笑えた。そして、笑えを堪えるための涙を小川のように流し続けた。
「ああ、おかげですっかり細くなってしまったよ」
「気の毒になぁ……年頃の娘の気の迷いってやつにやらてのかねえ……」
「お互い大変だな……」
ボアジエ公爵はホフマン公爵と夕食を共にしていた。
「カモ肉のステーキ……確か、君の好物だったろう?」
「ああ、これはなかなかの絶品だな」
「ゴート地方から直接取り寄せたんだ。口に合って何よりだよ」
「そして……君は私に頼みごとがあるというわけか?娘さんのことかね?」
「言うまでもないね。ご名答だ。昔ならば、取引なんてする間柄ではなかった。私たちは友達だったな……」
「昔話はいいさ。君の気持は分からないでもない。私も父親だ。娘さんの罪を少しでも軽くしたいと躍起になるのは当然のことだ。だが……婚約者に毒を盛る、しかも相手が王子様ときたら、これはそう簡単な話じゃないな。いくら旧友の頼みと言ってもね……」
「どこまで軽くすることができるんだ?」
「そうだな……裁量で死刑回避は可能だろう。ただ……努力して流刑かな?それくらいが限度だろうな……」
「流刑……仕方がないな……」
ボアジエ公爵は、一度ポケットの奥に仕舞いこんだ薬草を取り出そうとした。
「煙草がきれたみたいだ。下でもらってくるよ」
「そうか?ごゆっくりどうぞ」
ボアジエ公爵は決断することができなかった。娘が大事であるのは当然なのだが、かといってこのままホフマン公爵を殺めていいのか、これは非常に重大な問題だった。
「時代は変われど……私たちは永遠に友達でいることを誓い合ったな……。マリア……私は今から友達を殺そうとしているんだ。これは……許されることだろうか?」
受付でコップをもらい、水を汲んだ。ホフマン公爵に飲ませるつもりだった。そして、自分で調合した薬を水に溶かしこんだ。酔っぱらった舞踏家のように、手元が大きく波打っていた。
ガチャンと大きな音を立てて、コップが地面に落ちた。
「お客様!大丈夫ですか?」
「ああっ……大丈夫だ……」
ボアジエ公爵は、床に散らばった水とまだ溶け切らずにばらまかれた白粉を、足で思いっきり踏みつけた。
「どうして、私は薬師なんだろうか?どうして、私は友達に裏切られるのだろうか?どうして私は……これほどチキンなんだ?これじゃ、いつまでたってもあの日から進めないじゃないか……」
ボアジエ公爵は、思う存分笑った。自分がこれほど惨めだと思えば、余計に笑えた。そして、笑えを堪えるための涙を小川のように流し続けた。
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