最強の薬師、婚約破棄される〜王子様の命は私の懐の中〜

岡暁舟

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その9

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光がほとんど射しこんでこない、暗黒の空間。リンプルは地下深くの牢獄に収監された。その容疑は、第一王子暗殺計画の首謀者であること。捜査を指揮したのは、政敵であるホフマン公爵の長女アンナだった。

「初めに申し上げておきますが……実は今回の一件を、私は穏便に処理したいと思っているわけです」

アンナは言った。

「穏便に、とは?」

「つまり、本来であれば、王子暗殺計画を首謀した罪によると、あなたは死刑を免れません。しかしながら、王朝の側近であるボアジエ公爵家の人間が反乱を企てたと明るみになれば、逆説的に新たな反乱分子が生じる可能性が高いのです。事実、無学な農民どもは、あなたのお父様を厚く信頼しているそうじゃありませんか……」

「それは……私のお父様が正義に適った行いをしているからよ!農民だけじゃない、皇帝陛下だって、その点を高く評価して下さっているじゃない!」

「なるほど。しかしながら、皇帝陛下やあなたがたは無知なのです。彼らに命を与えたとしても、百害あって一利なしなのです。つまり、彼らが集約して行動を起こせば、国体保持という観点からして、相当のリスクになるわけなのです。ですから……あなたたちがやっていることは間接的な破壊活動なのですよ」

「ちょっと待って!すると、あなたたちは私にそんなバカげた罪を着せようとしているわけ?はあ……ダメだこりゃ」

リンプルは、アンナと話すのがだんだん馬鹿らしくなった。

「仮にそうだとしても、今回の一件とは全く関係ないでしょう?」

「話を戻します」

アンナは、採取したリンプルの薬草を提示した。

「これは最近、あなたがファンコニー様に調合した薬ですね?」

「ええ、そうよ」

「調べたところ、ベータという成分が多量に含まれていることが分かりました」

「その通りよ」

「ベータの配合量が、あなたのメモによると、日に日に増加していますね?」

「それは、ファンコニー様の体調の変化に合わせて増量したのよ」

「しかし……文献によると、ベータの過量投与により心停止を招くリスクがあると……こう書かれていますね」

リンプルはまた呆れた。

「あのね、素人にはそんなこと分からないでしょうよ。私はあくまでも、投与限界の範囲内で調整しているの!心停止になるのは、私の投与量の更に100倍くらいよ!」

「なるほど……しかしながら、ファンコニー様の感受性が亢進していたと考えると、どうでしょうか?」

「それもないわ。感受性が亢進していたら、少し増量しただけで薬効が出るはずだから。私の目は節穴じゃないの。だから、変化が見られれば必ず調整するわ」

「なるほど……しかしながら、引っかかりますね……。だったら、どうしてファンコニー様は意識を失ったのでしょうか?」

「だから!それが分からないと言っているでしょう!まあ、恐らく、ファンコニー様が急に立ち上がったから、一過性に血圧が低下したと考えるのが妥当なのでしょうけれど!」

「へえ……それは言い訳ですか?」

アンナは執拗にリンプルを挑発した。そうすれば、何かぼろが出ると思ったからだ。

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