9 / 34
その9
しおりを挟む
光がほとんど射しこんでこない、暗黒の空間。リンプルは地下深くの牢獄に収監された。その容疑は、第一王子暗殺計画の首謀者であること。捜査を指揮したのは、政敵であるホフマン公爵の長女アンナだった。
「初めに申し上げておきますが……実は今回の一件を、私は穏便に処理したいと思っているわけです」
アンナは言った。
「穏便に、とは?」
「つまり、本来であれば、王子暗殺計画を首謀した罪によると、あなたは死刑を免れません。しかしながら、王朝の側近であるボアジエ公爵家の人間が反乱を企てたと明るみになれば、逆説的に新たな反乱分子が生じる可能性が高いのです。事実、無学な農民どもは、あなたのお父様を厚く信頼しているそうじゃありませんか……」
「それは……私のお父様が正義に適った行いをしているからよ!農民だけじゃない、皇帝陛下だって、その点を高く評価して下さっているじゃない!」
「なるほど。しかしながら、皇帝陛下やあなたがたは無知なのです。彼らに命を与えたとしても、百害あって一利なしなのです。つまり、彼らが集約して行動を起こせば、国体保持という観点からして、相当のリスクになるわけなのです。ですから……あなたたちがやっていることは間接的な破壊活動なのですよ」
「ちょっと待って!すると、あなたたちは私にそんなバカげた罪を着せようとしているわけ?はあ……ダメだこりゃ」
リンプルは、アンナと話すのがだんだん馬鹿らしくなった。
「仮にそうだとしても、今回の一件とは全く関係ないでしょう?」
「話を戻します」
アンナは、採取したリンプルの薬草を提示した。
「これは最近、あなたがファンコニー様に調合した薬ですね?」
「ええ、そうよ」
「調べたところ、ベータという成分が多量に含まれていることが分かりました」
「その通りよ」
「ベータの配合量が、あなたのメモによると、日に日に増加していますね?」
「それは、ファンコニー様の体調の変化に合わせて増量したのよ」
「しかし……文献によると、ベータの過量投与により心停止を招くリスクがあると……こう書かれていますね」
リンプルはまた呆れた。
「あのね、素人にはそんなこと分からないでしょうよ。私はあくまでも、投与限界の範囲内で調整しているの!心停止になるのは、私の投与量の更に100倍くらいよ!」
「なるほど……しかしながら、ファンコニー様の感受性が亢進していたと考えると、どうでしょうか?」
「それもないわ。感受性が亢進していたら、少し増量しただけで薬効が出るはずだから。私の目は節穴じゃないの。だから、変化が見られれば必ず調整するわ」
「なるほど……しかしながら、引っかかりますね……。だったら、どうしてファンコニー様は意識を失ったのでしょうか?」
「だから!それが分からないと言っているでしょう!まあ、恐らく、ファンコニー様が急に立ち上がったから、一過性に血圧が低下したと考えるのが妥当なのでしょうけれど!」
「へえ……それは言い訳ですか?」
アンナは執拗にリンプルを挑発した。そうすれば、何かぼろが出ると思ったからだ。
「初めに申し上げておきますが……実は今回の一件を、私は穏便に処理したいと思っているわけです」
アンナは言った。
「穏便に、とは?」
「つまり、本来であれば、王子暗殺計画を首謀した罪によると、あなたは死刑を免れません。しかしながら、王朝の側近であるボアジエ公爵家の人間が反乱を企てたと明るみになれば、逆説的に新たな反乱分子が生じる可能性が高いのです。事実、無学な農民どもは、あなたのお父様を厚く信頼しているそうじゃありませんか……」
「それは……私のお父様が正義に適った行いをしているからよ!農民だけじゃない、皇帝陛下だって、その点を高く評価して下さっているじゃない!」
「なるほど。しかしながら、皇帝陛下やあなたがたは無知なのです。彼らに命を与えたとしても、百害あって一利なしなのです。つまり、彼らが集約して行動を起こせば、国体保持という観点からして、相当のリスクになるわけなのです。ですから……あなたたちがやっていることは間接的な破壊活動なのですよ」
「ちょっと待って!すると、あなたたちは私にそんなバカげた罪を着せようとしているわけ?はあ……ダメだこりゃ」
リンプルは、アンナと話すのがだんだん馬鹿らしくなった。
「仮にそうだとしても、今回の一件とは全く関係ないでしょう?」
「話を戻します」
アンナは、採取したリンプルの薬草を提示した。
「これは最近、あなたがファンコニー様に調合した薬ですね?」
「ええ、そうよ」
「調べたところ、ベータという成分が多量に含まれていることが分かりました」
「その通りよ」
「ベータの配合量が、あなたのメモによると、日に日に増加していますね?」
「それは、ファンコニー様の体調の変化に合わせて増量したのよ」
「しかし……文献によると、ベータの過量投与により心停止を招くリスクがあると……こう書かれていますね」
リンプルはまた呆れた。
「あのね、素人にはそんなこと分からないでしょうよ。私はあくまでも、投与限界の範囲内で調整しているの!心停止になるのは、私の投与量の更に100倍くらいよ!」
「なるほど……しかしながら、ファンコニー様の感受性が亢進していたと考えると、どうでしょうか?」
「それもないわ。感受性が亢進していたら、少し増量しただけで薬効が出るはずだから。私の目は節穴じゃないの。だから、変化が見られれば必ず調整するわ」
「なるほど……しかしながら、引っかかりますね……。だったら、どうしてファンコニー様は意識を失ったのでしょうか?」
「だから!それが分からないと言っているでしょう!まあ、恐らく、ファンコニー様が急に立ち上がったから、一過性に血圧が低下したと考えるのが妥当なのでしょうけれど!」
「へえ……それは言い訳ですか?」
アンナは執拗にリンプルを挑発した。そうすれば、何かぼろが出ると思ったからだ。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】待ち望んでいた婚約破棄のおかげで、ついに報復することができます。
みかみかん
恋愛
メリッサの婚約者だったルーザ王子はどうしようもないクズであり、彼が婚約破棄を宣言したことにより、メリッサの復讐計画が始まった。

【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?
桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。
天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。
そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。
「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」
イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。
フローラは天使なのか小悪魔なのか…
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語
サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。
この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!?
プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。
貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる