5 / 34
その5
しおりを挟む
ファンコニーが一過性に意識を失い、道端で倒れていたという事実が明るみになると、今度はその原因究明が問題になった。原因究明の指揮をとったのは、皇帝直属の情報機関であり、そのトップに君臨していたのが、ホフマン公爵であった。
ホフマン公爵は、リンプルの父であるボアジエ公爵の同級生であり、二人は元々仲が良かった。しかしながら、二人は別々の道を進むことになる。ホフマン公爵家は代々軍人の家系であった。先代やそのまた先代の公爵たちは、戦争において数々の勲功をあげた。現代になって、戦争は一度も起きていない。平和社会が実現すると、ホフマン公爵の役割は軍事ではなく、諜報活動に変化した。
ホフマン公爵は、疑わしき民を牢獄に入れ、処罰することを繰り返した。国体保持という観点からは評価できたかもしれないが、当然、反感を買うこともあった。ことさら、ボアジエ公爵のような博愛主義者に言わせれば、ホフマン公爵の行いは大いに問題があった。
いっぽう、貧しき民をも分け隔てなく救済するボアジエ公爵のことを、ホフマン公爵は良く思っていなかった。彼らが一致団結して軍隊となった場合、国体の保持は場合によっては困難になると考えた。
「貧しき者を救う必要はない。社会の荷物になるだけだ」
ホフマン公爵はこう苦言を呈した。
「私は薬師だから、君が何と言おうと、私のやり方を貫くまでだ」
ボアジエ公爵は、一歩も引かなかった。
さて、今回の一件は、ホフマン公爵にとって、非常に優勢だった。つまり、ファンコニーが意識を失った原因を、ボアジエ公爵の娘であるリンプルのせいだということにすれば、この度持ち上がった二人の婚約を破談させることができ、さらには、国体の窮地を救った英雄として称えられ、娘のアンナがファンコニーと婚約することになれば、ホフマン公爵家がより一層繁栄すると思った。
「アンナよ。ファンコニー様と婚約したくはないか?」
「ファンコニー様……王子様と婚約してどうするんですか?」
「そうすれば、お前の望みは全て叶うんだぞ?お前は皇帝の母になることができる。そして……リンプル君と言ったかな、ボアジエのろくでなし娘を抹殺することだってできるんだ……」
「リンプル……あいつを抹殺することができるんですか!」
アンナは喜んだ。リンプルのせいで、と言うのはあくまでも彼女の妄想だった。しかしながら、今までの学園生活を楽しむことができなかったのは、リンプルが隣にいたからだと自分に言い聞かせていた。
「リンプルさえいなければ……私は成績一番で、スポーツも一番で……美しさも一番で!ああっ、全部あいつに持って行かれたんです!好きな人も出来たのに、みんなリンプルに告白して!私の青春なんて、全部あいつにぶっ壊されたんです!!!」
「ならば、復讐したいとは思わないかい?今が絶好のチャンスなんだぞ……」
「お父様……私、やります」
「そうか、よく言ったな……」
親子の意見が一致した。ここから、ファンコニーの一件が全て、リンプルによるものだというストーリーが作られることになった。
ホフマン公爵は、リンプルの父であるボアジエ公爵の同級生であり、二人は元々仲が良かった。しかしながら、二人は別々の道を進むことになる。ホフマン公爵家は代々軍人の家系であった。先代やそのまた先代の公爵たちは、戦争において数々の勲功をあげた。現代になって、戦争は一度も起きていない。平和社会が実現すると、ホフマン公爵の役割は軍事ではなく、諜報活動に変化した。
ホフマン公爵は、疑わしき民を牢獄に入れ、処罰することを繰り返した。国体保持という観点からは評価できたかもしれないが、当然、反感を買うこともあった。ことさら、ボアジエ公爵のような博愛主義者に言わせれば、ホフマン公爵の行いは大いに問題があった。
いっぽう、貧しき民をも分け隔てなく救済するボアジエ公爵のことを、ホフマン公爵は良く思っていなかった。彼らが一致団結して軍隊となった場合、国体の保持は場合によっては困難になると考えた。
「貧しき者を救う必要はない。社会の荷物になるだけだ」
ホフマン公爵はこう苦言を呈した。
「私は薬師だから、君が何と言おうと、私のやり方を貫くまでだ」
ボアジエ公爵は、一歩も引かなかった。
さて、今回の一件は、ホフマン公爵にとって、非常に優勢だった。つまり、ファンコニーが意識を失った原因を、ボアジエ公爵の娘であるリンプルのせいだということにすれば、この度持ち上がった二人の婚約を破談させることができ、さらには、国体の窮地を救った英雄として称えられ、娘のアンナがファンコニーと婚約することになれば、ホフマン公爵家がより一層繁栄すると思った。
「アンナよ。ファンコニー様と婚約したくはないか?」
「ファンコニー様……王子様と婚約してどうするんですか?」
「そうすれば、お前の望みは全て叶うんだぞ?お前は皇帝の母になることができる。そして……リンプル君と言ったかな、ボアジエのろくでなし娘を抹殺することだってできるんだ……」
「リンプル……あいつを抹殺することができるんですか!」
アンナは喜んだ。リンプルのせいで、と言うのはあくまでも彼女の妄想だった。しかしながら、今までの学園生活を楽しむことができなかったのは、リンプルが隣にいたからだと自分に言い聞かせていた。
「リンプルさえいなければ……私は成績一番で、スポーツも一番で……美しさも一番で!ああっ、全部あいつに持って行かれたんです!好きな人も出来たのに、みんなリンプルに告白して!私の青春なんて、全部あいつにぶっ壊されたんです!!!」
「ならば、復讐したいとは思わないかい?今が絶好のチャンスなんだぞ……」
「お父様……私、やります」
「そうか、よく言ったな……」
親子の意見が一致した。ここから、ファンコニーの一件が全て、リンプルによるものだというストーリーが作られることになった。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!
みなと
恋愛
「思い出した…」
稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。
だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。
そして、殺されてしまったことも。
「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」
冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。
その結果はいかに?!
※小説家になろうでも公開中

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?
桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。
天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。
そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。
「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」
イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。
フローラは天使なのか小悪魔なのか…

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!
しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる