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その4
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リンプルが帰って来るのを、ファンコニーは城の外で待っていた。
「王子様!何をしていらっしゃるのですか!」
春とはいっても、まだ肌寒い朝だった。ファンコニーはどちらかと言えば病弱だったから、リンプルはまずいと思った。
「血圧が上がってしまいますよ!王子様、さあ、早く中へ入りましょう!」
リンプルは、ファンコニーの部屋に着くと、すぐに血圧と脈を測った。
「少し血圧と脈を下げましょう。普段よりも効能の強い薬草を用います。ですから……しばらくは安静にしていてくださいね」
「ああ、分かった。なに、早く君の顔を見たかっただけだよ。そんなに怒らないでくれよ」
リンプルは、ベータという強力な成分を薬に混ぜた。
「これを飲んで下されば、安定しますわ。さあ、後はゆっくりとお休みくださいませ。お昼ごろになったら、歩かれても大丈夫ですよ」
「そうか、ありがとう。ああ、リンプル。ここにいてくれないか?君の顔を見ていたいんだ」
「分かりました。しばらくのあいだ、様子を見ています」
「ありがとう……しかし、リンプルと婚約するだなんて、夢にも思わなかったよ……」
リンプルがファンコニーの元に戻ってきて、ここ最近ずっと、ファンコニーの朝の血圧が高かった。原因はよく分からなかったが、リンプルはベータを追加していった。おかげで、血圧は昼頃になって下がって、それはよかった。しかし、薬に対する耐性が出てくると、ベータの量を一層増やさざるをえなかった。
ファンコニーの体温が一過性に上昇したり、あるいは、食欲の異常な亢進が見られたり、様々な変化が起きた。しかし、リンプルは全て把握していた。それが大きな副作用でないこともちゃんと理解していた。
「かえって調子がいいくらいだよ!」
ファンコニーは、一昔前の虚弱でやや青ざめた少年から、すっかり血の気を取り戻した大人に様変わりしていった。
これで話が終われば、結果として誰もがハッピーな結末を迎えることができたはずだ。そう、二人の婚約を正式に発表する前日のこと、事件が起きた。
いつものように健康観察を終えたリンプルは、ベータを多量に混ぜた薬をファンコニーに飲ませた。
「いよいよ明日だな……考えるだけで緊張してきちゃうな!」
「まあ、王子様ったら!」
リンプルもすっかりファンコニーに馴染んだ。後は、リンプルが、ファンコニー、と名前で呼びさえすれば、本当の夫婦に成り得たのだろう。
「いいですか?何度も言うようですが、昼までは安静にしていてくださいね。それと……私は仕事があるので、一度抜けます。昼頃にもう一度伺いますから……」
「それだと、私が寂しいじゃないか?」
ファンコニーはリンプルの腕をそっと掴んだ。行っちゃヤダ、と母親に駄々をこねる子供のようだった。
「仕方ないですね……一時間だけですよ?」
「そうか、ありがとう!」
ファンコニーはしばらく、リンプルと話をして、その後眠った。ベータは時に眠気を誘発するので、そのまま寝かせておくのがよかった。
「リンプル……わたしはきみのことが……だいすきなんだ……」
寝言でも、ファンコニーはリンプルに愛を囁いていた。
「私も……王子様のことを愛していますよ。それでは、また昼になったら参りますからね……」
リンプルは部屋をそっと出ていった。それから三十分ほど経って、ファンコニーは目を覚ました。
「ああ、少し眠ってしまったようだ……どれ、少し散歩でもしようかな……」
ファンコニーはリンプルとの約束を破り、立ち上がって散歩に出かけてしまった。この一瞬の過ちが、ファンコニーとリンプルに新たな運命をもたらすことになった。
「王子様!王子様!王子様!聞こえますか?誰か!王宮まで運んでください!」
ファンコニーは気絶して、城の外の道端に倒れていた。それを見つけたのが、他ならぬ、ホフマン公爵家の長女アンナであった。
「王子様!何をしていらっしゃるのですか!」
春とはいっても、まだ肌寒い朝だった。ファンコニーはどちらかと言えば病弱だったから、リンプルはまずいと思った。
「血圧が上がってしまいますよ!王子様、さあ、早く中へ入りましょう!」
リンプルは、ファンコニーの部屋に着くと、すぐに血圧と脈を測った。
「少し血圧と脈を下げましょう。普段よりも効能の強い薬草を用います。ですから……しばらくは安静にしていてくださいね」
「ああ、分かった。なに、早く君の顔を見たかっただけだよ。そんなに怒らないでくれよ」
リンプルは、ベータという強力な成分を薬に混ぜた。
「これを飲んで下されば、安定しますわ。さあ、後はゆっくりとお休みくださいませ。お昼ごろになったら、歩かれても大丈夫ですよ」
「そうか、ありがとう。ああ、リンプル。ここにいてくれないか?君の顔を見ていたいんだ」
「分かりました。しばらくのあいだ、様子を見ています」
「ありがとう……しかし、リンプルと婚約するだなんて、夢にも思わなかったよ……」
リンプルがファンコニーの元に戻ってきて、ここ最近ずっと、ファンコニーの朝の血圧が高かった。原因はよく分からなかったが、リンプルはベータを追加していった。おかげで、血圧は昼頃になって下がって、それはよかった。しかし、薬に対する耐性が出てくると、ベータの量を一層増やさざるをえなかった。
ファンコニーの体温が一過性に上昇したり、あるいは、食欲の異常な亢進が見られたり、様々な変化が起きた。しかし、リンプルは全て把握していた。それが大きな副作用でないこともちゃんと理解していた。
「かえって調子がいいくらいだよ!」
ファンコニーは、一昔前の虚弱でやや青ざめた少年から、すっかり血の気を取り戻した大人に様変わりしていった。
これで話が終われば、結果として誰もがハッピーな結末を迎えることができたはずだ。そう、二人の婚約を正式に発表する前日のこと、事件が起きた。
いつものように健康観察を終えたリンプルは、ベータを多量に混ぜた薬をファンコニーに飲ませた。
「いよいよ明日だな……考えるだけで緊張してきちゃうな!」
「まあ、王子様ったら!」
リンプルもすっかりファンコニーに馴染んだ。後は、リンプルが、ファンコニー、と名前で呼びさえすれば、本当の夫婦に成り得たのだろう。
「いいですか?何度も言うようですが、昼までは安静にしていてくださいね。それと……私は仕事があるので、一度抜けます。昼頃にもう一度伺いますから……」
「それだと、私が寂しいじゃないか?」
ファンコニーはリンプルの腕をそっと掴んだ。行っちゃヤダ、と母親に駄々をこねる子供のようだった。
「仕方ないですね……一時間だけですよ?」
「そうか、ありがとう!」
ファンコニーはしばらく、リンプルと話をして、その後眠った。ベータは時に眠気を誘発するので、そのまま寝かせておくのがよかった。
「リンプル……わたしはきみのことが……だいすきなんだ……」
寝言でも、ファンコニーはリンプルに愛を囁いていた。
「私も……王子様のことを愛していますよ。それでは、また昼になったら参りますからね……」
リンプルは部屋をそっと出ていった。それから三十分ほど経って、ファンコニーは目を覚ました。
「ああ、少し眠ってしまったようだ……どれ、少し散歩でもしようかな……」
ファンコニーはリンプルとの約束を破り、立ち上がって散歩に出かけてしまった。この一瞬の過ちが、ファンコニーとリンプルに新たな運命をもたらすことになった。
「王子様!王子様!王子様!聞こえますか?誰か!王宮まで運んでください!」
ファンコニーは気絶して、城の外の道端に倒れていた。それを見つけたのが、他ならぬ、ホフマン公爵家の長女アンナであった。
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