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その1
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「レイチェル。突然で申し訳ないのだが、私は君との婚約を破棄しようと思うんだ……」
そう言ったのは、この国の王太子であるレオンハルト様だった。
「……え?今何て言いました??????」
「だから!私と婚約破棄してくれと言ったのだ!!!!!!!!」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。私は自分の耳を疑った。そして思った事はただ一つ。
(なんで、どういうことなのかしら!?)
どうしてそんな結論に至ったのか全く理解出来ない。だって、そもそも私は彼と婚約なんてしていないのだから。婚約さえしていないのに、どうして婚約破棄なんて話になってしまうのかしら?
そもそもの始まりからしておかしかった。事の発端は三日前に遡る。その日もいつも通り、私の朝は早い。まだ暗いうちに起き出して、身支度を整えてから庭に出る。我が家では毎朝の習慣として、家族全員揃って朝食前に軽く体を動かす事が決められていたからだ。お父様に剣術を教えてもらうようになってからは更に早くなった。私より早く起きている使用人は誰もいない。その事に優越感を感じながら、私は準備運動を始める。
体がほぐれてきたら、木刀を持って素振りをする。それが終われば今度は模擬戦だ。今日は誰に相手をしてもらおうかと考えていると、遠くの方から足音が聞こえて来た。誰かが走ってくる音だったので、気になってそちらを見る。するとそこには息を切らせたレオンハルト殿下の姿があった。
「はぁっ……はあっ……」
どうやら走って来たらしい。
彼は膝に手を当ててぜぇぜぇ言っていた。
「あのー、大丈夫ですか?」
見ていられなくて思わず声をかけてしまう。
「あ、ああ……。問題ない……」
はっとしたように顔を上げたレオンハルト様はそのままゆっくりと立ち上がる。
だがすぐによろけてしまったのを見て、慌てて駆け寄って支えた。
「全然問題ありですよね!?」
「いや、本当に大丈夫なんだ」
ふらついたまま立ち上がろうとするものだから、結局また倒れそうになる。仕方ないのでそのまま彼の腕を取って引っ張り上げた。
「無理しないで下さい。一体どうされたんですか?」
「少し寝坊をしてしまってな……急いでいたのだ……」
それでこんな早朝から走っていたという訳か。でも走るならせめてもうちょっと軽い格好をした方がいいんじゃないだろうか。それに、寝癖のついた髪のままなのはどうかと思う。
私がじっと見つめていると、レオンハルト様は何とも言えない顔をして、静かに私の顔を見つめるようになった。
「えっと……何か?」
私は思わず気になってしまって、彼に質問をしてみた。
「いや、君はいつ見ても綺麗だと思ってな」
突然の言葉に心臓が飛び跳ねる。まさか、こんなことを言われるだなんて、今まで想像もしていなかったのだ。
「そ、それはどういう意味でしょうか……」
「特に深い意味はないのだが……君はとても可愛いと思っているよ」
「ありがとうございます。嬉しいです……」
褒められた事が嬉しくて頬が緩む。いや、正直に言えば、うれしいと言うよりかは不思議な気持ちの方が強かった。レオンハルト様のことはもちろん知っていた。でも、こうして麺と向かって話す事はほとんどなかったように記憶していたのだ。
きっと今の私の顔は真っ赤になっているだろう。しかし次の瞬間には一気に青ざめた。だって、さっきまであんなにもフラついていたはずのレオンハルト様は、今ではしっかりと立っていたからだ。そして何故かこちらに向かって歩いて来る。私は混乱しながらも後ずさったが、背中はすぐに壁に当たってしまった。
これ以上下がれないと悟ると、頭の中に警鐘が鳴る。
(あれ?これってもしかしてもしかする?)
じりじりと距離が詰まるにつれ、嫌な予感が確信へと変わっていく。
(まさかとは思うけど、もしかしなくてもこれはまずいんじゃないだろうか)
私は恐ろしさのあまり涙目になりながらも必死に逃げ道を探す。
「レティシア嬢、私の妃となってくれないか?」
そう言って彼が差し出したのは一輪の花だった。白銀色に輝く花びらがとても美しい。だが、残念ながらそれどころではない。というか、どうしていきなりこんな話になってしまったのだろうか。ほぼほぼ初対面の相手に対して、しかも相手は王子様なのだ。私は単なる令嬢に過ぎない。そんな私を妃にするだなんて、とても信じられなかったのだ。
「申し訳ありません。私のような者に勿体無いお言葉なのですが、今は結婚なんて考えていません。レオンハルト殿下のお気持ちは大変光栄に思いますが、この話はなかったことにして頂きたく存じます」
どうせ、何かの間違いだと思った。私はそれだけ言うと、深々と礼をしてその場を離れた。当然返事など聞くつもりもない。
「そうか、それは非常に残念な話だな……」
レオンハルト様はその日のうちに帰っていった。
そしてその日の内に私は婚約破棄を言い渡されたのである。
そう言ったのは、この国の王太子であるレオンハルト様だった。
「……え?今何て言いました??????」
「だから!私と婚約破棄してくれと言ったのだ!!!!!!!!」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。私は自分の耳を疑った。そして思った事はただ一つ。
(なんで、どういうことなのかしら!?)
どうしてそんな結論に至ったのか全く理解出来ない。だって、そもそも私は彼と婚約なんてしていないのだから。婚約さえしていないのに、どうして婚約破棄なんて話になってしまうのかしら?
そもそもの始まりからしておかしかった。事の発端は三日前に遡る。その日もいつも通り、私の朝は早い。まだ暗いうちに起き出して、身支度を整えてから庭に出る。我が家では毎朝の習慣として、家族全員揃って朝食前に軽く体を動かす事が決められていたからだ。お父様に剣術を教えてもらうようになってからは更に早くなった。私より早く起きている使用人は誰もいない。その事に優越感を感じながら、私は準備運動を始める。
体がほぐれてきたら、木刀を持って素振りをする。それが終われば今度は模擬戦だ。今日は誰に相手をしてもらおうかと考えていると、遠くの方から足音が聞こえて来た。誰かが走ってくる音だったので、気になってそちらを見る。するとそこには息を切らせたレオンハルト殿下の姿があった。
「はぁっ……はあっ……」
どうやら走って来たらしい。
彼は膝に手を当ててぜぇぜぇ言っていた。
「あのー、大丈夫ですか?」
見ていられなくて思わず声をかけてしまう。
「あ、ああ……。問題ない……」
はっとしたように顔を上げたレオンハルト様はそのままゆっくりと立ち上がる。
だがすぐによろけてしまったのを見て、慌てて駆け寄って支えた。
「全然問題ありですよね!?」
「いや、本当に大丈夫なんだ」
ふらついたまま立ち上がろうとするものだから、結局また倒れそうになる。仕方ないのでそのまま彼の腕を取って引っ張り上げた。
「無理しないで下さい。一体どうされたんですか?」
「少し寝坊をしてしまってな……急いでいたのだ……」
それでこんな早朝から走っていたという訳か。でも走るならせめてもうちょっと軽い格好をした方がいいんじゃないだろうか。それに、寝癖のついた髪のままなのはどうかと思う。
私がじっと見つめていると、レオンハルト様は何とも言えない顔をして、静かに私の顔を見つめるようになった。
「えっと……何か?」
私は思わず気になってしまって、彼に質問をしてみた。
「いや、君はいつ見ても綺麗だと思ってな」
突然の言葉に心臓が飛び跳ねる。まさか、こんなことを言われるだなんて、今まで想像もしていなかったのだ。
「そ、それはどういう意味でしょうか……」
「特に深い意味はないのだが……君はとても可愛いと思っているよ」
「ありがとうございます。嬉しいです……」
褒められた事が嬉しくて頬が緩む。いや、正直に言えば、うれしいと言うよりかは不思議な気持ちの方が強かった。レオンハルト様のことはもちろん知っていた。でも、こうして麺と向かって話す事はほとんどなかったように記憶していたのだ。
きっと今の私の顔は真っ赤になっているだろう。しかし次の瞬間には一気に青ざめた。だって、さっきまであんなにもフラついていたはずのレオンハルト様は、今ではしっかりと立っていたからだ。そして何故かこちらに向かって歩いて来る。私は混乱しながらも後ずさったが、背中はすぐに壁に当たってしまった。
これ以上下がれないと悟ると、頭の中に警鐘が鳴る。
(あれ?これってもしかしてもしかする?)
じりじりと距離が詰まるにつれ、嫌な予感が確信へと変わっていく。
(まさかとは思うけど、もしかしなくてもこれはまずいんじゃないだろうか)
私は恐ろしさのあまり涙目になりながらも必死に逃げ道を探す。
「レティシア嬢、私の妃となってくれないか?」
そう言って彼が差し出したのは一輪の花だった。白銀色に輝く花びらがとても美しい。だが、残念ながらそれどころではない。というか、どうしていきなりこんな話になってしまったのだろうか。ほぼほぼ初対面の相手に対して、しかも相手は王子様なのだ。私は単なる令嬢に過ぎない。そんな私を妃にするだなんて、とても信じられなかったのだ。
「申し訳ありません。私のような者に勿体無いお言葉なのですが、今は結婚なんて考えていません。レオンハルト殿下のお気持ちは大変光栄に思いますが、この話はなかったことにして頂きたく存じます」
どうせ、何かの間違いだと思った。私はそれだけ言うと、深々と礼をしてその場を離れた。当然返事など聞くつもりもない。
「そうか、それは非常に残念な話だな……」
レオンハルト様はその日のうちに帰っていった。
そしてその日の内に私は婚約破棄を言い渡されたのである。
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