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「あのぉ…傷が治ったら実家に帰ってもいいですかぁ?」
僕はさりげなく質問してみた。すると、アンナ様の表情が変わった…先ほどよりも強烈で、怒っているようだった。
「あなた…人の話を聞いていましたか?ねえ、聞いていたの?」
どうやら癇癪持ちのようだ。自分が気に入らないとすぐに大声で怒りだし…椅子を持ち上げて部屋の外に放り投げた!ああ、怖い怖い…怒り狂った女の力は凄まじいと思った。
「ねえ、どうして私の言うことが聞けないんですか?あなたは私の救世主様…婚約することが運命づけられているというのにどうして私から逃げようとするの!」
怒り出すと、これはきっと誰も止められないのだろう。そういう女性は一定数いる。万が一…そんなことはほぼありえないが、婚約してしまったら、いつもこんな感じで怒られるのだろうか。それだけは絶対に嫌だ…僕の人生の伴侶はもう心に決めているのだ。
こうなったら逃げるか…一か八か。ここに居続けるくらいなら覚悟して脱走しよう。僕は思い切って走りだした。こんな短期間で傷が治るわけないのに、医者の技術が高いのか、思いのほか身軽に動くことが出来た。これはつまり、治ったってことだよね!
「どこに行くんだ!待ちなさい!!!」
アンナ様は僕を追いかけようとした。でも、男女の差は歴然としている。手を抜いて走ってもアンナ様との距離は開いていく。
「待ちなさーい…ハァハァ…ねえ、誰か!そこの男をとめてぇっ…」
アンナ様が必死に追いかけているのをみんなが見ている。それでも、誰も僕を止めようとしない。我関せず、触らぬ神に祟りなし、といった感じなのか。ひょっとして…王宮で彼女は厄介者扱いされているのではないか。こんな癇癪持ちであれば、誰もが避けたいと思うだろう。
「どうして、誰も私の話を聞いてくれないの!そうやって…みんな逃げていくの?お父様に訴えてやるんだから!」
お父様というのは当然皇帝陛下のことだろう。どうやら、本気で怒っているようだ。でもまあ、自分で解決しないといけない問題だからね。自分で解決出来ないってことは、やっぱり弱いってことなんだ。
「ああ、本当に止まりなさい!」
アンナ様の姿がいよいよ見えなくった。階段を降り切って、ようやく病院から出られると思った。
「そこのお方、悪いことは言いません。後1分もすると、さも尊いお方がいらっしゃいますので…このまま病院から全速力で出ていきますと、そのお方と鉢合わせしてしまうかもしれません。ああ、またも尊い方からお逃げになっているのは分かりますし急いでいらっしゃるのももちろん心得ておりますが…ひとまずはこちらにお隠れになるのが良いでしょう…」
受付の女性から不意に声をかけられた。まんざら嘘を言っているわけでもないと思ったので、仕方なく女性の言う通り隠れることとした。
「待ちなさーい…あれっ、もう病院を出てしまったのかしら?」
アンナ様がようやくたどり着いたころ、物々しい兵隊が病院を取り囲み始めた。アンナ様の護衛…もあるだろうが、外から高位貴族がやって来る予感がした。あれっ、アンナ様よりも高位な貴族ってことはもしかして…。
「病院の中で大声を出すなんて、見っともないぞ、アンナ…」
「なにをって…お父様?」
僕の予想は当たった。アンナの父親…この世界の統治者である皇帝陛下のお出ましだった。そう言えば、皇帝陛下は医者の資格を持っていると聞いたことがある。ひょっとして、この病院の院長とかなのか?
「これはこれはお父様…お久しぶりでございますね…」
さすがのアンナ様も皇帝陛下の前では大声を出すことは出来ないようだった。
「ああ、お前を命懸けで守った勇敢な騎士がいると聞いてな…一遍その男に会って礼を言いたいと思ったのだ」
「ああ、そういうことでしたか…」
「それで…その男は今どこにいるのだ?病室か?」
「ええと、それがですね…行方知らずとなってしまったのです…」
「なにっ?行方知らずだと?盗賊どもにさらわれたのか?」
「いいえ、そういうわけではなくて、自らの意思で逃げ出したようでございます…」
「自らの意思で?それは一体どういうことだ…」
「きっと、私が婚約したい、なんて言い出したのがいけなかったのかしら…」
「なにぃ、婚約だと?」
皇帝陛下の目の色が変わった。まあ、父親としては当然のことだろう。こんな田舎貴族が婚約相手となったら、それこそ王家の名誉に関わる問題となってしまうのだから。
「それは…本当の話なのか?」
あれっ…ひょっとして人生終わったのか?僕はそう思った。救世主であることは事実だが、それをいいことに第一王女と婚約しようとする田舎貴族…誑かしたとか、そういう風に思われてしまったら…皇帝陛下の怒りをかってしまったら、間違いなく処刑されそう…。
「そうかそうか、本当だとしたら実にめでたい話だなあっ!!!」
皇帝陛下の態度が変わった。あれっ…想像していたのとは違った。めでたい…だって?皇帝陛下、どうしてそんなにニコニコしているのですか?
「はいっ、早く救世主様と婚約したいですっ!」
アンナ様もニコニコ…どうやら、いい意味で想定外の方向に話が進みそうだった。
「ああ、実にめでたい話だ!よし、善は急げだ。早急に婚約の準備をしなければ!!!」
なんだか、親子の間で話が進んでいるんですけど?僕の意思は誰も聞いてくれないの???
ロビンソン、絶体絶命?
僕はさりげなく質問してみた。すると、アンナ様の表情が変わった…先ほどよりも強烈で、怒っているようだった。
「あなた…人の話を聞いていましたか?ねえ、聞いていたの?」
どうやら癇癪持ちのようだ。自分が気に入らないとすぐに大声で怒りだし…椅子を持ち上げて部屋の外に放り投げた!ああ、怖い怖い…怒り狂った女の力は凄まじいと思った。
「ねえ、どうして私の言うことが聞けないんですか?あなたは私の救世主様…婚約することが運命づけられているというのにどうして私から逃げようとするの!」
怒り出すと、これはきっと誰も止められないのだろう。そういう女性は一定数いる。万が一…そんなことはほぼありえないが、婚約してしまったら、いつもこんな感じで怒られるのだろうか。それだけは絶対に嫌だ…僕の人生の伴侶はもう心に決めているのだ。
こうなったら逃げるか…一か八か。ここに居続けるくらいなら覚悟して脱走しよう。僕は思い切って走りだした。こんな短期間で傷が治るわけないのに、医者の技術が高いのか、思いのほか身軽に動くことが出来た。これはつまり、治ったってことだよね!
「どこに行くんだ!待ちなさい!!!」
アンナ様は僕を追いかけようとした。でも、男女の差は歴然としている。手を抜いて走ってもアンナ様との距離は開いていく。
「待ちなさーい…ハァハァ…ねえ、誰か!そこの男をとめてぇっ…」
アンナ様が必死に追いかけているのをみんなが見ている。それでも、誰も僕を止めようとしない。我関せず、触らぬ神に祟りなし、といった感じなのか。ひょっとして…王宮で彼女は厄介者扱いされているのではないか。こんな癇癪持ちであれば、誰もが避けたいと思うだろう。
「どうして、誰も私の話を聞いてくれないの!そうやって…みんな逃げていくの?お父様に訴えてやるんだから!」
お父様というのは当然皇帝陛下のことだろう。どうやら、本気で怒っているようだ。でもまあ、自分で解決しないといけない問題だからね。自分で解決出来ないってことは、やっぱり弱いってことなんだ。
「ああ、本当に止まりなさい!」
アンナ様の姿がいよいよ見えなくった。階段を降り切って、ようやく病院から出られると思った。
「そこのお方、悪いことは言いません。後1分もすると、さも尊いお方がいらっしゃいますので…このまま病院から全速力で出ていきますと、そのお方と鉢合わせしてしまうかもしれません。ああ、またも尊い方からお逃げになっているのは分かりますし急いでいらっしゃるのももちろん心得ておりますが…ひとまずはこちらにお隠れになるのが良いでしょう…」
受付の女性から不意に声をかけられた。まんざら嘘を言っているわけでもないと思ったので、仕方なく女性の言う通り隠れることとした。
「待ちなさーい…あれっ、もう病院を出てしまったのかしら?」
アンナ様がようやくたどり着いたころ、物々しい兵隊が病院を取り囲み始めた。アンナ様の護衛…もあるだろうが、外から高位貴族がやって来る予感がした。あれっ、アンナ様よりも高位な貴族ってことはもしかして…。
「病院の中で大声を出すなんて、見っともないぞ、アンナ…」
「なにをって…お父様?」
僕の予想は当たった。アンナの父親…この世界の統治者である皇帝陛下のお出ましだった。そう言えば、皇帝陛下は医者の資格を持っていると聞いたことがある。ひょっとして、この病院の院長とかなのか?
「これはこれはお父様…お久しぶりでございますね…」
さすがのアンナ様も皇帝陛下の前では大声を出すことは出来ないようだった。
「ああ、お前を命懸けで守った勇敢な騎士がいると聞いてな…一遍その男に会って礼を言いたいと思ったのだ」
「ああ、そういうことでしたか…」
「それで…その男は今どこにいるのだ?病室か?」
「ええと、それがですね…行方知らずとなってしまったのです…」
「なにっ?行方知らずだと?盗賊どもにさらわれたのか?」
「いいえ、そういうわけではなくて、自らの意思で逃げ出したようでございます…」
「自らの意思で?それは一体どういうことだ…」
「きっと、私が婚約したい、なんて言い出したのがいけなかったのかしら…」
「なにぃ、婚約だと?」
皇帝陛下の目の色が変わった。まあ、父親としては当然のことだろう。こんな田舎貴族が婚約相手となったら、それこそ王家の名誉に関わる問題となってしまうのだから。
「それは…本当の話なのか?」
あれっ…ひょっとして人生終わったのか?僕はそう思った。救世主であることは事実だが、それをいいことに第一王女と婚約しようとする田舎貴族…誑かしたとか、そういう風に思われてしまったら…皇帝陛下の怒りをかってしまったら、間違いなく処刑されそう…。
「そうかそうか、本当だとしたら実にめでたい話だなあっ!!!」
皇帝陛下の態度が変わった。あれっ…想像していたのとは違った。めでたい…だって?皇帝陛下、どうしてそんなにニコニコしているのですか?
「はいっ、早く救世主様と婚約したいですっ!」
アンナ様もニコニコ…どうやら、いい意味で想定外の方向に話が進みそうだった。
「ああ、実にめでたい話だ!よし、善は急げだ。早急に婚約の準備をしなければ!!!」
なんだか、親子の間で話が進んでいるんですけど?僕の意思は誰も聞いてくれないの???
ロビンソン、絶体絶命?
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