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「あのぉ……言っている意味が分からないんですけど」

 僕がこう言うと、アンナ様は急に表情を変えた。「はああああっ?」と呆れた口調に変わった。そして段々と口調が厳しくなった。

「意味が分からないですって?言葉通りですよ。私の新しい婚約者としてあなたを迎え入れると言うことです。病気が完治したらすぐさま婚約発表をいたしましょう!」

 再びアンナ様の表情が明るくなった。命の恩人……間違ってはいない。だが、僕は下級貴族だ。下級貴族が第一王女と婚約出来るなんて、この世界はそれほど融通が効かない。アンナ様の両親、すなわち現皇帝陛下たちが許可をするわけがないのだ。少なくとも王家と近い親戚筋で公爵クラスの身分でないと王女との婚約は出来ない……別に法律で決まっているわけではないが、不文律である。だから、辺境の田舎貴族……たかだか子爵クラスの僕には無理な話なのだ。

「ああ、ひょっとして、身分的に難しいとか考えています?ああ、図星のようですね!」

 まあ、僕が憂慮するのはそこしかないからね。アンナ様は得意げに語り始めた。

「その点については心配いりません!そもそも、下級貴族が王家の人間と結婚してはならないと法律で決まってはおりません。それに…お父様の代とは違って、我々貴族の間でも自由恋愛という考え方が広まってきております。ですから……身分差があろうがなかろうが、いや、身分差があってこそ、私たちの婚約はこの世界の新たな幕開けを告げることになるのです!」

 そんなに簡単に話が進むのか、僕には分からなかった。ただ一つ言えることとしては、アンナ様の自信がものすごいということだ。

「ああ、卑しい盗賊どもから身を挺して守って下さった勇者様と婚約……神様の定められた運命に従って、私たちはもう婚約するより他にないです!それに……あれは私のファーストキスだったんですよ?」

 乙女に戻るアンナ様…アンナ様の中ではもう決定事項なのだ。万が一アンナ様と婚約することになると……家柄については子爵から一気に最高位公爵まで駆け上るのだろう。両親はもちろん大喜びするはずだ。我が家は代々辺境の下級貴族であり、国境警備を生業としていた。これほどの立身出世は先祖代々遡ってみても、絶対にないことだ。

 でも、このまま一生王宮に軟禁されることになるのか?今回の一件もあったから、アンナ様の外出の機会は減ることが予想されるし……。そうすると、もうメリーには会えないのだろうか。


「ひょっとして……他の女のことを考えています?」

 アンナ様は全てお見通しなのか……怖くなってしまう。まあ、その通りなのだが。

「私以外の女って……ひょっとしてあの時あなた様の手を取った、あの小娘ですか?」

 アンナ様は段々不機嫌になっていく……何か良くないことが起きるのではないかと思った。
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