上 下
6 / 6

6

しおりを挟む
「敵だって???どういうことだ???」

 アイントフォーヘン様は当然気が付いていなかった。

「ああ、なんとなくそんな気がしたんですよ。ええ、大丈夫です。じきに犯人は捕まるでしょう」

「捕まるって……どうしてわかるんだ???」

 ああ、もう。いちいち説明するのがめんどくさい。だって……これがゲームのシナリオ通りだから。私はシナリオを把握しているわけだから。

「怪しき者どもを見つけました!!!」

 兵隊がたくさんやって来た。その一部から声が聞こえて……予想通りの光景だった。

「どうして……こんなはずじゃなかった……」

 アンナとスカーレットの姿……予想通りだった。スカーレットは狼狽えていた。まあ、このまま暗殺が成功してしまうパターンも一応あるのだ。もちろん、私にとってはバッドエンドということになるわけだが。その場合、スカーレットがアイントフォーヘン様を恐喝して、アンナが新しい婚約者になるわけだ。

 だが、今回は当然失敗に終わってしまった。私は止めを刺す。

「スカーレット!!!その銃はなんなの???」

 私は大声で名指しした。スカーレットはますます慌てていた。

「まさか……たった今、私たちに向けて発砲したわけじゃないでしょうね???」

「まさか……そんなことはありません!!!」

 そう答えるよりなかっただろう。

「あら、それではその銃はなんなの???」

「これは……エカテリーナ様を狙う怪しい男からお守りするために……」

 そんな男はいない……まあ、そういう設定もあるのだが、現状の設定ではいないのだ。イージーモードの場合、変なストーカーは登場しないのだ。 

「そんな言い訳は聞きたくない……あなたは明確にいま、この瞬間……私を殺そうとした!!!」

 スカーレットはこれ以上反論できなかった。

「さあ……覚悟はできているかしら???それとも、いっそのことこの場で殺して差し上げようかしら???」

 私の口から、殺す、という言葉が出て来たのに、さすがのアイントフォーヘン様も驚いたようだった。誰よりも平和主義者であることを、私はすっかり忘れていたのだ。

「君は……そんな物騒なことを言うのか……」

「物騒ですって???ええ、それで結構ですわ。でもね、王子様。それくらいじゃないと国家は守れませんから」

 私は気にすることなく、スカーレットの方に向かった。

「さて……主人を殺そうと考えるとは、随分と良い度胸をしているじゃない?」

 さすがのスカーレットでも、動揺するようだった。どうして私が気付いてしまったのか、結局のところはそこが一番問題だろう。

「まあ……あなたの御主人様に免じて、今回の一件は許してあげる……」

 スカーレットはぱあっと一瞬表情が明るくなった。


 次の瞬間、「ああああああああああっ」と悲鳴が聞こえた。


「汚い血ね…………」


 私はアンナに語りかけた。聞こえていたのか、びっくりしていた。

「さあ、行きましょう。アイントフォーヘン様……」


 勝利を得る……現実世界では困難でも、ゲームの中では簡単だ。うん、全てのプログラムを把握しているからね。そう思っていた。アイントフォーヘン様の手に触れようとした瞬間。


「どうして?」


 私は自身に問い返した。寒い銀色の空……神様が私をすっかり見放してしまったように。


「また終わってしまうの?」


 もはや泣く気力もなかった。もう終わった……。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

美食家悪役令嬢は超御多忙につき

蔵崎とら
恋愛
自分が悪役令嬢だと気が付いているけれど、悪役令嬢というポジションを放棄して美味しい物を追い求めることにしました。 そんなヒロインも攻略対象キャラもそっちのけで珍しい食べ物に走る悪役令嬢のお話。 この作品は他サイトにも掲載しております。

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

悪役令嬢は、いつでも婚約破棄を受け付けている。

ao_narou
恋愛
 自身の愛する婚約者――ソレイル・ディ・ア・ユースリアと平民の美少女ナナリーの密会を知ってしまった悪役令嬢――エリザベス・ディ・カディアスは、自身の思いに蓋をしてソレイルのため「わたくしはいつでも、あなたからの婚約破棄をお受けいたしますわ」と言葉にする。  その度に困惑を隠せないソレイルはエリザベスの真意に気付くのか……また、ナナリーとの浮気の真相は……。  ちょっとだけ変わった悪役令嬢の恋物語です。

断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!

ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。 気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

処理中です...