婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟

文字の大きさ
12 / 22

12

しおりを挟む
 スティーブンがそこにいること、居合わせることについてはよくよく考えてみると、それほど不思議なことではなかった。ただ、タイミングの問題というか…。そういうことである。

「おいおい、大丈夫か?」

 スティーブンはバートンの方に近づいてくる。バートンは気絶したままだった。そして、その隣に私がいることに気が付いた。

「君は……」

 スティーブンの声は観衆の狂気に消された。野次馬というのもあるが、それ以上に美男子であるスティーブンが人助けをしているシーンは絵柄として最適なのだ。

「スティーブン様が人助けをしていらっしゃるわ!!!」

 私と同年代の令嬢たちがこぞって集まる…馴染みある光景だった。かつての私は……スティーブンの横を一緒に歩いていたんだ。今は赤の他人だけど……。幸いなことに、この場に居合わせた令嬢たちで私を知る者はいなかったようだ。

「急病人がおります!今すぐ病院まで運んでください!!!」

 私は思いっきり叫んだ。叫んだ効果でスティーブンはすぐさま担架を用意し、王宮に近い病院まで運ぶ手はずを整えた。道中、スティーブンは私のことを見ていた。私はスティーブンのことを知っているが、スティーブンは…ひょっとすると私のことを忘れたのかもしれない。そう思った。

 スティーブンは病院に到着するまで、到着してからも終始無言だった。仮に私のことを覚えていても、なんて声をかければいいのか分からなかっただろう。

「急病人です、よろしくお願いします!!!」

 病院に到着しても、私は大声で叫んだ。視界から……意識の中からスティーブンを消したかった。今、私の伴侶になるのはバートンなのだから。スティーブンのことを意識してはいけないのだ。そう思っていた。


 バートンは中々目を覚まさなかった。医者の話によれば、過緊張に伴う失神とのことだった。失神でそんなに長期間意識を失うものなのか…。ふと横を見ると、そこにはスティーブンの姿がある。


「あのお……どうして残っていらっしゃるのですか?」

 視界から消えてほしい男……私は悪意を込めて、スティーブンに質問をした。

「……ここにいてはダメだろうか?」

 スティーブンの意図がよく分からなかった。最初は横にいる存在が邪魔だと思っていたけれど……少しずつ慣れていった。


「この場で……君のことを抱いてもいいか?」

 私はさすがに絶句した。この展開で抱く、とは?いよいよ気でも狂ったのか?

「君は……アンナだよね?」

 その時が初めてだった。スティーブンの口から私の名前が出たのは……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi(がっち)
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

いなくなれと言った本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?

睡蓮
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するカサルはその自信のままにセレスティンとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってカサルの存在価値を大きく落とし、セレスティンから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。

処理中です...