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 振り返れば、お父様が私をこの地に送ったのは、意地悪ではなくて私のことを最大限考えてくださった結果なのかもしれない。辺境伯爵の血筋を引くバートンと出会い、話が弾んで楽しいと思える。スティーブンと話す時は…どういうわけだか、畏まって自らを曝け出すことが出来なかった。素直に話をすることが出来なかった。

 でもね、バートンと話す時は素直になれる。私は毎晩バートンと夜空を見て、星々に思いを馳せて泣くことがある。そんな私をなんとなく気遣ってくれるバートン…悪くないと思った。

「どうして…君はそんなに悲しい顔をするんだろうか…。いやっ、僕が近くにいることが不愉快だったら、すぐに言ってくれたら、立ち去るから!!!」

 バートンは自分のせいで私が泣いていると、いつも考えるみたいだ。まあ…厳密に言えば半分くらいは当たっているかもしれないけど。

「バートン…もう少し自信を持ったら?私は一度もあなたのことを責めたことがないでしょう?あなたに嫌味を言ったこともない…もう、これほど正直になった私が本気であなたのことを嫌ったら、バカっ!!!とか言っちゃうわよ。でも言わないから」

「我慢しているんじゃないの?それが心配だ!!!」

 バートンはどうして、いつも発想がネガティブなんだろう。これだから女性との付き合いが少ないというのは大きな問題なのだろう。

「ねえ、バートン。あなただって、夜空を見て泣きたくなることがあるでしょう?」
 
 バートンは反論する。

「そんなことはない!!!夜空は美しいじゃないかっ…ああ、感動して泣くってこと?」

「それもあるけど…私たちって、随分とちっぽけだなって考えちゃうのよね…」

「ああ、それはなんとなく分かる気がするけど…」

「ちっぽけだから…誰かの支えが必要なんだ。私は比較的メンタルの強い女と思われたんだけど…ああ、そんなことはないのね。こうして…すぐに泣きだしてしまうくらいだから…」

 バートンはアタフタしている。こういった時、どのように声をかければいいかが分からないんだ。本当、女性経験がないんだから…まあ、いいんだけどね。

「誰かの支えが必要…抱きしめてもらって…その中で静かに泣くことが出来れば、それはもう完璧よね!!!」

 私はバートンに抱き着こうと思った。もう心の中で決めていた。少なくとも、私にとってバートンは大切な存在である。バートンが私のことを受け入れてくれるかは分からないけど…奥手だから思い切って一歩踏み出してもいいかな、なんて考えたものだ。

「ううんっ…僕にはよく分からないや!!!」

 分からないならいい…それでいい。分からないままの君でいて。今日も2人でシンミリと夜空を見上げている。時々バートンの横顔を覗いてみるけど、バートンはやはりいつも笑っているのだ。

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