神様と翼のない少女

岡暁舟

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生死の境

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 彼は生きている…どうしてそんな風に考えたのか。不思議なものだ。

 救急隊が到着するまで、僕は自身で心臓マッサージを継続した。人工呼吸はさすがに出来なかったが、どうにか蘇生できないか、必死に考えた。

 ああ、交通整理なんて立派なことを言う前に自分で色々行動する方が案外気楽なんだと思った。もう死んでいると思っても…少しでも生き残る可能性があるなら、救った方がいいと考えた。

 周囲の野次馬たちは最初叫んでいた。スマートフォンを僕の方に向ける者も多いようだった(後に分かった)。それが段々と静まり返った。僕が真剣に命と向き合う瞬間…その姿に感銘を受けたのか?まあ、そんなことはどっちでもいい。とにかくマッサージを継続した。

 生き返る…そう信じて。救急車のサイレンが段々と大きくなってきた。総頸動脈を改めて触れてみると…少し触れるような感じがした。

「心拍は再開した…」

 僕は呟いた。救急隊がストレッチャーを持って駆け出してきた。

「急いでください!心拍は再開しましたよ!」

 僕は思わず叫んでしまった。救急隊は安堵したようだった。

「ご協力ありがとうございました…」

 救急隊に引継ぎを行って…まだ予断を許さなかった。次は…どこの病院に収容するか。田舎特有の問題が重く圧し掛かる…都会の病院に勤務していればほとんど感じない問題に直面した。

 それは単純な宿泊先を探すよりも大変な問題…どうせすぐには解決しないと思い、少なくともこの問題が解決するまでは生存者から離れまいと思った。
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