神様と翼のない少女

岡暁舟

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生き物の理

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「全ての生き物は海から生まれて、最後は海に帰っていく……」

 飛鳥は言った。中学の理科で習ったのか……僕も同じ頃に習った記憶がある。その実態は誰も分からない。だからこそ、生命の誕生は神秘に満ちているのだ。

「今日も……今この瞬間も命を終えて海に帰る人がいるのかしら……」

「まあ、海に帰るかは分からないけど……たくさんいるだろうね」

「あなたはどうして予想できるの?あなたは神様なの?」

 飛鳥に聞かれて、僕はなんと答えればいいか分からなかった。とりあえず言えるのは、神様でなくてただの人間であるということ。面白みがないんだよね。

「でも、人間だって勉強すれば少しは神様に近づける……人と関わらずに勉強を続けていると、少しずつ神様に近づいていくのかもしれないね」

「へええ、そうなんだ。なんだか不思議……」

 飛鳥もまた孤独なのだろう。愛してくれる人は……少ない家族と少ない友達。最も、家族にすら捨てられてしまった僕よりはマシだろうけど。

「ねえ、今頃騒ぎになっているかしら?」

「騒ぎって……君が家出して旅をしていることかい?」

「ええ、そういうこと」

「今日は平日だから……学校はサボったのかい?」

「あんなところ行っても仕方ないでしょう……」

 やはり、僕と同じ匂いだった。もう何もかも諦めている……閉鎖された社会では生きていないから自分で社会を作るしかないんだ。

「友達もいないのか?あの時、病院に来てくれた女の子たちは?」

「あれは……別に友達じゃないわよ。クラスの学級委員だったかしら、どうせ学校の先生に言われて様子を見に来たんでしょうよ。本当にチョコレートみたいな偽善者なのよ。あの子たちは……」

 そういうこともある……でもまだ頼れる家族がいれば……悪くはないだろうさ。僕よりはマシなはずだ。

「あなたとは気が合いそうね……本当に似ているわ……」

 飛鳥は言った。何と似ているのか……その答えがこの旅の目的なのだと思った。
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