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「どうして、どうしてこんなことになってしまったのかしら」

エリーゼは当時困惑したといいます。だって、父親は強力な後ろ盾だったわけですから、彼を失ってしまったら、1人で歩いていくことなんて不可能だったのでしょう。

王家との結びつきがあまりにも強すぎた、と言うことが問題だったのかもしれません。グラント氏の懐にはたくさんの賄賂が貢がれていたと言われていました。

普通だったら、こんな事は滅多にバレません。ですが、グラント氏のことを気に入らない連中が情報漏洩したのでしょう。

「ふざけないで。そうだとしたら、私はこれからどうやって王子様と婚約する未来を描けばいいのかしら」

エリーゼが疑問に感じるのはもっともなことだと思いました。でも、結局は自己責任ってことじゃないんですか。私はそう思いました。そして、怒りの矛先がなぜだか私へ向いてきました。

「マリア、これは全部あなたの仕業でしょう!」

何の根拠もない話でした。ですが、彼女は敵を作る事に必死でした。幸いなことに、仮想の敵はすぐ近くにおりました。それが私だったのです。

「それはどういうことかしら。私たちがそんなことをする必要はないでしょう」

私は言いました。でも、彼女にとっては私の言葉なんてちっとも響いていないようでした。

「あなたが、父親と結託して、我が家を亡き者にしようとしているんじゃないかしら」

「だから、どうして私たちがそんなことをする必要があるんですか」

「そんなの決まっているでしょう。あなたが王子様と婚約するためよ」

言いたいことはなんとなくわかりました。ですが、私は今まで1度も王子様と婚約したいと言った事はありませんでした。

「あなたが希望するとかしないとか、そういう問題じゃないのよ。あなたの父親が、自らの地位をもっともっと高めるために、あなたを利用しているだけなのよ!」

確かに、父親が私のことを利用する価値はあると思いました。より強く王家とのパイプを繋ぐことができれば、もっと良いと思ったのでしょう。

「でもね、だからといって他人を落とすようなことはしないでしょう」

私の父親は厳格な教育者なのです。そのようなせこい方法で自らをあげようとはしなかったはずです。私はそのように信じておりました。

ですが、後になってこの話が真実だったのではないかと思う瞬間が訪れました。グラント氏の逮捕と失脚が広く世間に知れ渡ることになって、ほとんど感情を表に出さない父親が、

「とうとうこの時がやってきた」

と、うれしそうに言っていたのです。もちろん、私のことを言っているかどうかわかりませんでした。ですが、タイミング的にはそう考えるのが自然だったと思います。

「さあさあ、これからが忙しくなる。我が家がもっともっと注目される時代がやってくるのだ」

やはり、父親は相当の野心家のようでした。私はこの時思いました。人間と言うのは、結局は自分の欲望にしか素直になれないんだと。私厳しい教育をしてきたのも、私の幸せを願って、と言うよりかは、私がもっともっと有利に王子様と婚約できる未来を描いていたからだったのです。
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