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「それにしても……往生際が悪いよな。囚人を使って……反乱でも起こすつもりなのか、閣下は???」

「まあ、かつての威厳が染みついているのでしょう。それに靡く囚人たちもまた、滑稽ですがね……」

「全くだ。大人しく牢屋に入っていれば、命だけはつないでやるって言うのにな……」

「命知らずな輩が多いですな……」

「いつから、人間はバカになったのかな……」


****************************************


グリニッジ男爵主催の夜会がお開きになり、招待された客人はみな、仕事場へ帰っていった。私はとりあえず、閣下の正体を突き止めようと思った。グリニッジ男爵の部屋に資料があることを確信した私は、彼の目を盗んで執務室に侵入した。男爵が閣下とわざわざ敬称を付けて呼ぶのだから、それなりに地位のある人物だと思った。そんな人物に関する書類……探しても出てくるのは名もない囚人のものばかりだった。

「お探しのもの……そこにはございませんよ」

不意に後方から声がした。全てが終わったと思った。いくら私でも、他人の執務室に侵入して粗探しをしているところを見られてしまったら……立場がないと思った。

「カレン様……あなた様が知りたいのは閣下……ミクリッツ様のことでしょう???」

声の主は侍女の一人で、ベテランのルミナだった。彼女は閣下のことをミクリッツと言った。

ミクリッツ……どこかで聞いたことのある名前だと思った。

「カレン様……恐らく、あなた様もお知り合いのはずですよ。なにせ、皇帝陛下の血を引き……一時は次期皇帝の候補にもなった方ですからね……」

ルミナの話を聞いて、私は全てを思い出した。ミクリッツ様……そう、私もまた、幼い頃彼の姿をどこか遠くで見たことがあるのだ。

そして、彼はいつしか私に微笑んだのだ。あの時の笑顔を、私はどうしてだか覚えていたのだ。

「カレン……君はカレンと言うのか……」

ミクリッツ様はあの時、私のことを名前で呼んでくれた……どうしてだか分からない。でも、そのことだけしっかりと覚えている。あれはお花畑……今はもうどこかに消えてしまったお花畑での出来事だった……。

「明日、ミクリッツ様の死刑が執行されるのですね……。カレン様、あなたがサインしてしまえば……」

ルミナは、ミクリッツ様の死刑執行にどうやら消極的なようだった。

「ねえ、ルミナさん。どうにかして、ミクリッツ様にお会いすることはできませんか???」

彼女なら、何かしらの方法を与えてくれるのではないかと期待した。そして、この期待はやはり、現実になるのだった。

「あなた様がそうおっしゃるのを待っておりましたわ」

そう言って、ルミナはこの屋敷の中で唯一閉ざされた部屋に私を案内した。
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