上 下
13 / 26

その13

しおりを挟む
「城の中も、大変壊れやすい構造となっておりますので、十分ご注意下さいませ……」

男が言っている側から、軍人の1人が床をぶち抜いた。

「危ない!」

男が必死に軍人の腕を引っぱった。思いのほか、この男は力持ちであることがわかった。

「戦場よりも危険だ……」

軍人はそう言って、額を汗でびっしょりと濡らした。

「下は見渡す限り崖だったぞ……」

軍人は、これ以上何も話したくないようだった。

「失礼いたしました。ご無事でなによりです。お許しください」

男は迷路のように複雑な道を進み、やっとのことで伯爵の眠る部屋にたどり着いた。

「まず、私が部屋に入りまして、伯爵の様子を確認致します。その後、聖女様、皇帝陛下、軍人殿の順番でご入出頂きますようにお願いいたします」

そう言って、男は部屋に入っていった。

少しして、男が部屋のドアを開け、私に手招きした。

「聖女様。なにとぞ、お気を付けください」

軍人の忠告を耳に刻んで、部屋に入った。私が閉じこもっていた空間と似た感じだった。その分、妙な親近感がわいた。きっと、居心地がいいと思った。皇帝陛下に言わせると、不満の巣窟なのだろうが。

「お待たせいたしました。聖女様、どうぞご覧くださいませ。こちらが、カーティス伯爵でございます……」

目を覆いたくなるほどの醜い様では、決してなかった。疫病にやられて、見るも無惨な姿を想像していただけに、案外普通だった。そこそこ年のいった男が、酒におぼれて、顔が赤くなっている、とでも例えればよいだろうか?後は、顔面にいくつかタンコブが出来ていた。これも、疫病のせいなのか?

「思ったほど酷くないみたいじゃない。ねえ、伯爵とお話しすることはできるかしら?」

私がこう尋ねると、男は、

「中々難しいと思います」

と答えた。

「それはどうして?」

私がこう尋ねると、男は、

「頭がやられて、まともな意思疎通ができないのです」

と答えた。

「なるほど、だとすると、あの手紙は本当にカーティス伯爵が書いたのかしら?」

男は、

「その通りです」

とにわかに自信なさげに答えた。

「まあ、いいわ。とにかく、話をしてみましょう。ああ、カーティス伯爵?聞こえていますか?あなたの便りを受けてやってきた聖女エミリーでございます!」

私がこう言っても、伯爵はちっとも反応しなかった。やはり、意思疎通ができないのだろうか?

「聞こえていますか?あなたからの依頼を受けて飛んで来たんですよ?あなたに聖なる魂を授けるために、はるばるやって来たのですよ?」

「……………………」

伯爵は何も答えなかった。

「やはり、無理みたいですね……」

「おかしい。話が出来過ぎているわ」

私は改めて、疑いの目を持った。カーティス伯爵が手紙を書いたのではない。他の人間がいる。そして、私を誘き寄せるためのワナかしら?

そうだとしたら、私はこの犯人を知っている。だけど、その顔が全く浮かばない。どうしてだろう?自分でも不思議だった。一番得意なことが制約を受けていた。これでは、手も足も出せなかった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

婚約破棄された悪役令嬢が実は本物の聖女でした。

ゆうゆう
恋愛
貴様とは婚約破棄だ! 追放され馬車で国外れの修道院に送られるはずが…

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

処理中です...