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2章
30.
しおりを挟む「今から話す事は他言無用だ。」
そう言って陛下の口から語られた内容は衝撃だった。
マーリャ様を産んだ直後に亡くなられた側室のエリザ様。彼女は出産直前まで健康状態に何の異常も無かったのに、臨月に入り突然苦しみ出したかと思えば、痙攣、発汗が止まらずすぐに意識が朦朧としだした。このままではお腹の子まで危険だと判断した医師の手によって、予定より早くマーリャ様は産まれる。エリザ様は最後まで意識が戻る事なく息を引き取ったが、その一部始終を目にしていた医師は、これは毒物を摂取した際に出る症状だと察した。
しかしいくら調べてもエリザ様の体から毒の痕跡が出る事はなく、彼女が毒を盛られたという事を裏付ける証拠も見つからなかった。
彼女の不可解な死に方に、王室には不穏な空気が流れる。
そんな状態で生まれたマーリャ様の瞳まで特殊だった事で、家臣の中には呪いだと騒ぐ者もいたが、陛下はその声を黙らせ秘匿にするよう命じた。
もし本当にエリザ様が何者かによって殺されたのならば、マーリャ様の命も危ない。そう考えた陛下は、マーリャ様を隠し育てる事にした。乳母は信頼のできる者が良いという事で、レイドの母親であるサリー様に決まった。
しかし、マーリャ様が産まれて1年後にサリー様も亡くなる。
「亡くなる直前のサリーの様子が、エリザ様の時の症状と酷似していたんだ。」
ライアン様が苦しそうに呟いた。レイドも下を向いて拳を強く握りしめている。
近い時期に同じような症状で2人も亡くなっているなんて、どう考えても誰かの陰謀を感じるわ。
「エリザの時と同じように、サリーの体を調べても何も出てはこなかった。しかし2人の死には必ず何かあると確信し、私とライアン、そしてニコラスで真相を明らかにすると決めた。レイドを教会に預けるように言ったのも私だ。仮に2人の死が、セリオスが王になる事を望む者達の仕業だとしたら、つぎに狙われるのはマーリャかレイドだと思ったからだ。」
「え・・・どうして俺なんですか。」
レイドは突然自分の名前を出された事に動揺して聞き返すが、それに答えたのはライアン様だった。
「お前はサリーの意思を強く受け継いでいる。貴族や平民という身分に拘らないその考え方を、城の中では気に入らない者が多い。お前も知っている通り、度々その事でサリーは嫌がらせを受けていた。彼女はそれでも最後まで考えを変える事はなかったが。だから次に狙われるのはお前だと思った。」
「だからって、気に入らないという理由だけで殺すなんて・・・。」
レイドが納得できず追求すると、今まで黙って見守っていたセリオス様が口を開く。
「俺のせいだ。」
「は?何でセリオスのせいなんだよ。」
「俺はサリーに育てられた。サリーの考え方が俺に影響しては困る奴らがいるんだろう。」
セリオス様にとっても辛い過去であるはずなのに、無表情で話す姿はわざと感情を殺しているように見える。
「レイドは常に俺と一緒にいた。サリーが亡くなっても、同じ思想を持つレイドが俺の傍にいれば必ずそいつらはまた排除しに来る。だからレイドが危険な目に遭わないように、俺から遠ざけた。」
「そうだ。貴族にとっては、身分や階級こそがステータスだ。セリオスが王となった時に、サリーのような考えを持たれては自分達にとって不利益になる、そう考えたのだろう。」
「ふざけんな!そんな事で、母さんは・・・くそっ!!」
レイドが怒りを抑えられず叫ぶ。
当然だ。私だって今物凄く叫びたいほど腹が立っている。そんな自分勝手な理由で殺したのだとしたら許せない。
私が怒りに体を震わせていると、父様が続ける。
「だが、現時点ではまだはっきりとした証拠がない。城の中でも選民意識の強い奴らを監視していたが、何の動きもないんだ。ならせめて毒の入手ルートが分かればと思い、裏の界隈を探っている所でモーリス子爵の情報を掴んだ。彼が怪しげな男達と密会しているとね。まさか実の娘を手にかける事はないと思うが、そこから何か分かればと監視していた矢先に陛下の毒殺未遂事件が起きてね。まんまと私達は嵌められてしまった。」
「今はゲイルの体調も回復しているが、あの時は本当に焦ったぜ。お前の命まで狙われているのかと。」
ライアン様が、今でも心から心配するように陛下の顔を見る。
確かこの2人は幼馴染みだったのよね。陛下も名前で呼ばれた事を咎める様子もないし、この2人からは主従関係以上の強い繋がりを感じる。
セリオス様とレイドも、ゲームではあまり接点がないように見えたけど、今のような関係をこのまま築いていってほしいと思う。
「私の場合、すぐに体調が戻った事からみてもお前達2人の行動を制限する為、微量の毒を盛られたのだろうな。全く腹立たしい。まぁ、毒を盛った奴には死以上の苦しみを味わってもらうがな。」
手を顎に付け冷淡な笑みを浮かべる陛下にゾクっと背筋が凍りそうになる。
先程までのマーリャ様に見せていた父親の顔は消え去り、元々の冷たい表情に戻っている。
いや、威圧感で言えばさっきの数倍怖い!
部屋全体が冷たい空気に満たされていると、ふと父様が思い出したように話しだした。
「そういえば、マーリャ様から隠し通路の存在を教えたという"仮面のおじさん"の事をまだ聞けていませんでしたね。話して頂けますか?」
「うん。だいぶ前になるんだけど、夜に1人で寝ていたら扉を叩く音が聞こえて目が覚めたんだ。父上かと思ってドアを開けたら、白い仮面を付けた人が立っていて、外に出る方法を教えてあげるって言われたの。」
「その男の特徴は覚えているか?身長、髪の色、体格、目は見えなかったか?覚えている事があればどんな些細な事でも良い。」
陛下の問いにマーリャ様は申し訳なさそうにゆっくりと首を横に振る。
「ごめんなさい。夜だったからあんまりよく見えなくて。確かお花みたいな甘い香りがした気がする。背は父上と同じか少し低いくらいだったかな。体格と髪は、マントで隠れてたから分からないです。」
「・・・そうか。」
陛下の言葉を最後に誰もが沈黙していると、廊下の方が騒がしくなる。バタバタとした足音が部屋の前で止まると、扉がノックされた。
「どうした。」
ライアン様が応じると、騎士が焦ったように告げる。
「はっ、申し上げます!モーリス子爵が数日前から行方不明との事です!」
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