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2章

29.

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お城に着くと、塔ではなく王室の客間に通された。ここで先程の話の続きが行われるのかと中に入ると、奥のソファーに座っている人物を見て私は思わず固まってしまう。


な、何で陛下がここに!?


セリオス様と同じ蜂蜜色の髪とエメラルドグリーンの瞳。しかしどちらかというと甘い顔のセリオス様とは違い、相手を射るような眼差しが威圧感を感じさせる。この強面の顔で詰め寄られたら何でも白状してしまいそうだ。


「陛下、遅くなり申し訳ありません。マーリャ様をお連れしました。」

「ご苦労だったなニコラス。マーリャ、近くに来い。」

「はい、父上。」

マーリャ様の硬い表情から緊張しているのが伝わってくる。抜け出した事を怒られると思っているのだろう。恐る恐る歩み寄るマーリャ様に、陛下が穏やかに話しかける。

「そう怖がらなくても良い。今回の事は私の責任でもある。お前がまさか隠し通路を知っているとは思わなかった。危険な目に遭ったそうだが、無事で良かった。」

叱責ではなく自分の身を案じる温かい言葉に、マーリャ様の目が潤んでいく。

「勝手に抜け出してごめんなさい。僕、どうしても式典を見に行きたくて・・・。」

「そうか。お前をずっと閉じ込めたままにしてすまなかった。口さがない者からお前を守る為だったのだが、私自身がお前を傷付けていたのかもしれないな。」

「父上・・・。」


陛下が申し訳なさそうに眉尻を下げ、マーリャ様の頭に優しく触れる。撫でる手つきが少しぎこちないのは慣れていないせいだろう。しかしその表情は、誰が見ても我が子を愛おしむ父親の顔そのものだった。


良かった。ちゃんとマーリャ様は愛されていたのね。


嬉しそうに頬を緩めていたマーリャ様が、徐に口を開く。


「・・・僕が王子だと聞きました。」

「ああ、その通りだ。いずれ時期がくれば話そうと思っていたんだが。そうか、聞いたんだな。」

「俺が話しました。父上、色々と伺いたい事があるのですが・・・マーリャの瞳は生まれつきなのですか?」

セリオス様が話しに加わる。父様は全てを知っているようで、黙って陛下を見つめている。何だか私だけが場違いな気がしていたたまれない。



「その事なんだが・・・」


セリオス様の問いに陛下が口を開きかけた時、ノックの音が響いた。

「陛下、ライアン・アーガスです。取り調べの途中ですが、急ぎ伝えたい事があり参りました。入室しても構いませんか。」

「許す。入れ。」

「失礼致します。」

ライアン様の後に続いてレイドも入る。
取り調べって、さっきマーリャ様を攫おうとしてた男達よね。もう何か分かったのかしら。
誰もが注目し固唾を飲んでライアン様の言葉を待つ。



「あの男達ですが、やはり金で雇われていました。式典の日に、平民側にいる黒いマントを被った子どもを攫うようにと命令されていたようです。」

「そうか。雇い主は分かったのか?」

「はい。モーリス子爵で間違いないかと。なかなか口を割らないので、少々手荒な方法を使いましたが、まぁ命はまだあるでしょう・・・今は。」


ライアン様の最後の言葉にゾッとする。
今は、って言ったよね!?それって、もうほぼ息の根がないんじゃ・・・。


「モーリス子爵か。ニコラス、お前の所の侍女が確かそこの娘だったな。」

「はい。今はすでに子爵家とは縁を切っていますが。この所モーリス子爵の周りで怪しい動きがあるとの報告を、侍女のリンナからも受けています。」


え!!!リンナってモーリス子爵家の令嬢だったの!?前世の記憶が戻る前からうちに居たけど、そういう話を聞いた事がなかったから知らなかった。
父様の発言に衝撃を受けていると、更にライアン様が言葉を続ける。


「私の判断で、義妹のリンナにはしばらくの間モーリス子爵の近況や周辺を探ってもらっていました。」

「ああ、リンナというのはお前の妻の妹だったか。」

「はい。子爵家の使用人の中には主人達に不満を持つ者も多く、簡単に情報を得る事ができたようです。」



リンナがライアン様の奥様の妹!?
それで2人は繋がっていたのね!よく出掛けていたのも子爵家を調べる為だったからなのね。そう考えると色々と辻褄が合うわ。
レイドを横目で見ると、目を丸くしている。どうやら彼も知らなかったようだ。


「そうか。すぐにモーリス子爵を連れてこい。抵抗するようなら多少乱暴に捕らえても構わん。」

「「はっ!」」



扉の前に控えていた騎士達と共にライアン様が出ていこうとすると、陛下から声がかかる。

「子爵家にはライアンとレイドを除く騎士で行け。お前達には話がある。ここに残れ。」

「!?分かりました。」


すぐにモーリス子爵家へと向かうつもりだったライアン様達は困惑気味に返事をする。



陛下に促されて全員がソファーに腰掛けた。
部屋の前に控えていた騎士達も下げさせ、人払いがされる。扉が完全に閉まり、部屋には私達だけとなった事を確認すると、陛下が重く低い声で呟いた。





「今から話す事は他言無用だ。」


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