27 / 35
2章
27.
しおりを挟む「僕はマーリャだよ。」
男の子の名前を聞いた途端、騎士達がはっと息を呑んだ。
「・・・そうか。君がマーリャだったんだな。」
「お兄ちゃん、僕の事を知っているの?」
「ああ。会うのは初めてだがよく知っている。」
「どうして僕を知ってるの?」
「・・・。」
セリオス様は質問にどう答えようか迷っているようだった。
私は2人の姿を黙って見守る。
マーリャ・タリアード
この国の第二王子で、セリオス様の異母弟にあたる。母親は側室だが、平民の血を引いていた事からお城では随分な扱いをされていたとか。
王の寵愛を一身に受けていたが、マーリャ様を出産された直後に亡くなられた。
本来なら第二王子の誕生は国を挙げてお祝いする所だが、側室が亡くなられた事でしばらくの間祝い事は自粛すると決めた国王の命令により、誕生したという事実を国民に知らせるだけに留まった。
しかし、喪に服す期間が過ぎても一向に第二王子の存在が示される事はなかった。
マーリャ様は人見知りが激しいらしく、人前に出た事がない。自国の第二王子の姿を見た者が1人もいないと言うのはどう考えてもおかしい。
そのためマーリャ様については様々な憶測を呼んだ。
─産まれた時になんらかの事故が起き、寝たきりの状態なのではないか─
─側室と同様に冷遇されていて、存在を隠されているのではないか─
ー平民の血を引く第二王子に王位継承権がいかないように、すでに殺されているのではないかー
噂が噂を呼び、今では第二王子死亡説がだいぶ有力になっている。
ここまではこの世界では誰もが知っている情報だ。
だけど私はゲームでの彼を知っている。
彼が何故、人前に出ないのか。
「ねぇ、どうしてお兄ちゃんは僕の事を知ってるの?」
「それはだな、つまり・・・。」
尚も聞いてくるマーリャ様に対して、セリオス様が答えにくい気持ちも分かる。
今ここで自分の正体を明かせば、マーリャ様を傷付けてしまうと思っているのだろう。
煌びやかな世界で国民に尊崇されながら生活している自分と、反対に自由を奪われて1人孤独に生きてきた異母弟。
マーリャ様がセリオス様の事を知らないという事は、自分が第二王子だという事も知らされていないのかもしれない。
「・・・俺は、この国の第一王子でセリオスという。君の異母兄にあたるんだ。」
「え!お兄ちゃんは王子様なの!?どうりで格好良いと思った!でも、僕のお兄ちゃんってどういうこと?」
「・・・君は、この国の第二王子なんだ。」
「・・・?」
マーリャ様は突然の告白に理解できていないようだった。
セリオス様がさらに続ける。
「俺は君の存在は知っていた。ただ、父上からは訳あってずっと側室の後宮で暮らしていると聞かされていたんだ。まさか1人で暮らしているとは思わなかったが。君の辛い境遇も知らず今まで過ごしていた事を申し訳なく思う。」
まるで懺悔をするように俯くセリオス様に、マーリャ様はしばらく黙り込んでいた。
いきなり第二王子だと言われても混乱するわよね。ずっと塔の中にいたって事は、外の世界の事だってほとんど知らないはずなのに。
そこまで考えて、ふと疑問に思う。
「あの、マーリャ様はどうやって塔から出られたのですか?塔にも警備をしている騎士の方がいらっしゃいますよね?」
「えっとね。それは仮面のおじちゃんが"抜け道"を教えてくれたの。」
「仮面のおじちゃん、ですか?」
「うん。本当はこの事は内緒なんだけど、お姉ちゃん達は僕の事を助けてくれたから特別に教えてあげる。夜中に仮面のおじちゃんがやってきて、抜け道から出られるって教えてくれたんだ。いつもは駄目だけど、式典の日は塔の警備の人が少なくなるからって。」
それって・・・
私が次の言葉を発しようとした瞬間、突然セリオス様がマーリャ様の肩を掴む。
「そいつはどんな奴だ!?顔は見えなかったか!?声は覚えているかっ!?」
「えっ?えっ!?」
─ドサッ─
激しく詰め寄られた事で、マーリャ様は驚きのあまり尻餅をついてしまった。
衝撃でフードがずれ、隠されていた顔が露わになる。
私の頭に声が響いた。
───何て醜いのかしら!貴方は呪われているわ!この、化け物───
マーリャ様の瞳は中心が白っぽく、逆に白目の部分は全て黒色に覆われ、まるで悪魔のようだった。
20
お気に入りに追加
3,264
あなたにおすすめの小説
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
ヒロインを虐めなくても死亡エンドしかない悪役令嬢に転生してしまった!
青星 みづ
恋愛
【第Ⅰ章完結】『イケメン達と乙女ゲームの様な甘くてせつない恋模様を描く。少しシリアスな悪役令嬢の物語』
なんで今、前世を思い出したかな?!ルクレツィアは顔を真っ青に染めた。目の前には前世の押しである超絶イケメンのクレイが憎悪の表情でこちらを睨んでいた。
それもそのはず、ルクレツィアは固い扇子を振りかざして目の前のクレイの頬を引っぱたこうとしていたのだから。でもそれはクレイの手によって阻まれていた。
そしてその瞬間に前世を思い出した。
この世界は前世で遊んでいた乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢だという事を。
や、やばい……。
何故なら既にゲームは開始されている。
そのゲームでは悪役令嬢である私はどのルートでも必ず死を迎えてしまう末路だった!
しかもそれはヒロインを虐めても虐めなくても全く関係ない死に方だし!
どうしよう、どうしよう……。
どうやったら生き延びる事ができる?!
何とか生き延びる為に頑張ります!
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる