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2章

27.

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「僕はマーリャだよ。」

男の子の名前を聞いた途端、騎士達がはっと息を呑んだ。

「・・・そうか。君がマーリャだったんだな。」
「お兄ちゃん、僕の事を知っているの?」
「ああ。会うのは初めてだがよく知っている。」
「どうして僕を知ってるの?」
「・・・。」

セリオス様は質問にどう答えようか迷っているようだった。
私は2人の姿を黙って見守る。



マーリャ・タリアード

この国の第二王子で、セリオス様の異母弟にあたる。母親は側室だが、平民の血を引いていた事からお城では随分な扱いをされていたとか。
王の寵愛を一身に受けていたが、マーリャ様を出産された直後に亡くなられた。
本来なら第二王子の誕生は国を挙げてお祝いする所だが、側室が亡くなられた事でしばらくの間祝い事は自粛すると決めた国王の命令により、誕生したという事実を国民に知らせるだけに留まった。
しかし、喪に服す期間が過ぎても一向に第二王子の存在が示される事はなかった。
マーリャ様は人見知りが激しいらしく、人前に出た事がない。自国の第二王子の姿を見た者が1人もいないと言うのはどう考えてもおかしい。
そのためマーリャ様については様々な憶測を呼んだ。


─産まれた時になんらかの事故が起き、寝たきりの状態なのではないか─


─側室と同様に冷遇されていて、存在を隠されているのではないか─


ー平民の血を引く第二王子に王位継承権がいかないように、すでに殺されているのではないかー




噂が噂を呼び、今では第二王子死亡説がだいぶ有力になっている。

ここまではこの世界では誰もが知っている情報だ。
だけど私はゲームでの彼を知っている。
彼が何故、人前に出ないのか。


「ねぇ、どうしてお兄ちゃんは僕の事を知ってるの?」
「それはだな、つまり・・・。」

尚も聞いてくるマーリャ様に対して、セリオス様が答えにくい気持ちも分かる。
今ここで自分の正体を明かせば、マーリャ様を傷付けてしまうと思っているのだろう。

煌びやかな世界で国民に尊崇されながら生活している自分と、反対に自由を奪われて1人孤独に生きてきた異母弟。
マーリャ様がセリオス様の事を知らないという事は、自分が第二王子だという事も知らされていないのかもしれない。



「・・・俺は、この国の第一王子でセリオスという。君の異母兄にあたるんだ。」

「え!お兄ちゃんは王子様なの!?どうりで格好良いと思った!でも、僕のお兄ちゃんってどういうこと?」

「・・・君は、この国の第二王子なんだ。」

「・・・?」


マーリャ様は突然の告白に理解できていないようだった。
セリオス様がさらに続ける。

「俺は君の存在は知っていた。ただ、父上からは訳あってずっと側室の後宮で暮らしていると聞かされていたんだ。まさか1人で暮らしているとは思わなかったが。君の辛い境遇も知らず今まで過ごしていた事を申し訳なく思う。」


まるで懺悔をするように俯くセリオス様に、マーリャ様はしばらく黙り込んでいた。
いきなり第二王子だと言われても混乱するわよね。ずっと塔の中にいたって事は、外の世界の事だってほとんど知らないはずなのに。
そこまで考えて、ふと疑問に思う。

「あの、マーリャ様はどうやって塔から出られたのですか?塔にも警備をしている騎士の方がいらっしゃいますよね?」
「えっとね。それは仮面のおじちゃんが"抜け道"を教えてくれたの。」
「仮面のおじちゃん、ですか?」
「うん。本当はこの事は内緒なんだけど、お姉ちゃん達は僕の事を助けてくれたから特別に教えてあげる。夜中に仮面のおじちゃんがやってきて、抜け道から出られるって教えてくれたんだ。いつもは駄目だけど、式典の日は塔の警備の人が少なくなるからって。」


それって・・・


私が次の言葉を発しようとした瞬間、突然セリオス様がマーリャ様の肩を掴む。
 

「そいつはどんな奴だ!?顔は見えなかったか!?声は覚えているかっ!?」


「えっ?えっ!?」



─ドサッ─



激しく詰め寄られた事で、マーリャ様は驚きのあまり尻餅をついてしまった。
衝撃でフードがずれ、隠されていた顔が露わになる。



私の頭に声が響いた。












───何て醜いのかしら!貴方は呪われているわ!この、化け物───
















マーリャ様の瞳は中心が白っぽく、逆に白目の部分は全て黒色に覆われ、まるで悪魔のようだった。



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