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2章

24.

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「ねぇ、男の人って何を貰えば嬉しいかしら?」




レイドへの贈り物をリンナに相談すれば、意外な顔をされた。

「お嬢様、ついにお相手の方が見つかったのですか?」
「ついにって何よ。残念ながら、お友達にあげるのよ。」
「ああ、そうですか。」


ちょっと。可哀想な子を見る目はやめて。リンナだって恋人いないじゃないの。

日に日に私への態度が失礼になってきている気がするが、私がそれを良しとしているから何の問題も無い・・・無いのかしら?


「来週入団試験を受けるから、終わった後にお疲れ様の意味も込めてプレゼントを贈ろうと思うの。でも、ありきたりな物は嫌なのよね。」
「では、手作りの品を差し上げてはどうですか?騎士になられる方ならばお守り等も良いかと思います。危険が付き物のお仕事ですから、安全を願ってお嬢様が作られれば喜ばれるのでは。」
「お守り・・・確かにそれいいわね。ありがとう!」
「お役に立てたようで良かったです。」

色はレイドの髪と同じ紺色が良いかしら。でも赤も似合いそうだし迷うわね。そうだ、セリオス様にもお揃いで作ってみよう。

「楽しそうですね。」
「え?」
「お顔が嬉しそうですよ。」
「そ、そうかしら?」

渡した時の反応を想像していたら、自然と笑顔になっていたようだ。
だって、今世で初めてできたお友達なんだもの。

・・・リンナの温かい目が恥ずかしいわ。



お守りがようやく完成した頃、レイドが入団試験に受かった事を父様から聞いた。表彰もされるらしい。
レイドの今までの努力を知っているからこそ、自分の事のように喜んだ。

「リザベルが嬉しそうでなによりだよ。その日はどうしても外せない用事があって、一緒に行けないのが残念だ。」
「また来年は一緒に行きましょう。今回はリンナと一緒に父様の分も楽しんできますね。」

お守りはレイドは紺色、セリオス様は黄色にした。
初めて作ったので形がちょっと歪になってしまった。作り方を教えてくれたリンナは"上手ですよ"と褒めてくれたけど、2人は喜んでくれるかしら。




式典当日の空は、青く澄みきっていてとても気持ちが良かった。空気も美味しく感じて、何度も深呼吸をしていたらリンナに心配された。
うん、違うの。鼻息が荒いわけじゃないの。

広場に着くと大勢の人達で賑わっていて、私の心も躍る。
広場の外には屋台もあり、良い匂いがそこら中から漂っている。ああ、もうお腹がすいてきたわ。
貴族と平民では観覧できる場所が分かれていて、入る所も別々だ。

「お嬢様、貴族側の入場口はこちらですよ。」
「え?確かいつもはこっちだったはずだけど。」
「今年は逆になったようです。たまには見る景色が変わるのも面白いだろうとの事らしいですが。」
「ふーん、そういうものかしら?まぁいいわ。じゃあ、行きましょう。」

広場は式典等の時は貴族と平民で分かれるが、普段は誰でも入る事ができるし座る場所も全て同じ造りなので特に気にならない。
入り口すぐの階段を上り、出来るだけ見えやすい位置を探して座る。

「ここからならよく見えそう!」
「お嬢様、あまり身を乗り出しては危険です。」
「そうね、気をつけるわ。でも今日をすごく楽しみにしていたんだもの。」

小さい子どものようにはしゃいでしまい、リンナに呆れられた。


やがて人の入りが増えほぼ満席になった頃、表彰式の始まりを知らせる鐘が鳴った。
レイドをはじめ、選ばれた上位5名の新人騎士たちが入場する。観客からは騎士の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。きっと家族や知り合いなのだろう。私もレイドの名前を叫ぶと、声に気付いた彼と目があった。いくら近い場所から叫んだとはいえ、よく聞こえたわね。
レイドはこの大舞台だというのに全く緊張している様子もなく、私に向かって笑顔を見せてくる。

新人騎士達は、それぞれ自分の配属される部隊の隊長から勲章を授与される。
レイドは父親のライアン様から貰っていた。同じ部隊なのね。
無事に表彰式も終わり、いよいよ今日の目玉の剣舞が始まる。
観客の熱気は最高潮だ。普段は国を守る為の剣技も、今日だけは芸術的な感じがする。強さというより、優雅という言葉が合うような。

剣舞に見入っていると、平民側の客席を黒い布のような物が走って行くのが見えた。すぐに出口へと消えてしまったので、本当に一瞬しか見えなかったけど。その後を追うように、バタバタと数人の人影も走って出て行く。普段なら気にも留めない事なのに、何故だかその光景がどうしても引っかかった。
まるで『追いかけろ』と言われているみたいに。

「私ちょっと熱気に酔ってしまったから、少しだけ外で涼んでくるわね。」
「私も一緒に行きます。」
「すぐに戻るから大丈夫よ。この場所が取られないように待っててちょうだい。」

私の思い過ごしかもしれないので、着いてこようとするリンナを強引に残し外へと急いだ。


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