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2章
23.
しおりを挟む「セリオス様、私はここで大丈夫です。王妃様がお呼びとの事ですので、すぐに向かわれてください。」
「いや、最後まで送る。」
「門はもう見えてますから。陛下の容態に何かあったのなら大変ですし。」
「・・・分かった。門まで送れなくてすまない。また何かあれば知らせてくれ。」
「はい、送っていただきありがとうございました。お気をつけて。」
走っている途中で何回か心配そうに振り返るセリオス様の心遣いが嬉しくなる。
姿が見えなくなるまで見送った後、私はフェリオの方へと歩いて行く。
見て見ぬ振りをする事だってできた。馬車だって待たせている。
だけど、どうしてもゲームのフェリオの事を思い出してしまう。
実の母親を幼い頃に亡くし、父親はすぐに後妻を迎える。後妻には2人の連れ子がいた。フェリオより一つ年下の息子ライザと、さらにその1つ下の娘ルフラ。後妻とは前妻が生きている頃からの愛人関係で、ライザ達も宰相の実の子だった。
宰相は後妻の子だけを可愛がり、フェリオに対しては冷たかった。後妻も勿論フェリオには無関心。父親がフェリオに冷たかった理由は、フェリオの母とは政略結婚で愛がなかったから。フェリオは、父親に愛されたい、必要とされたいという思いから努力をし続けるけど、どれだけ頑張っても認められず、その事で性格が歪んでしまう。
ゲームでは最後、カイルの婚約者の悪役令嬢と共に断罪されるんだけど、その時も父親はフェリオを庇うどころか顔色一つ変える事はなかった。王となったセリオスに共犯ではないかと問われた時も、自分は何も知らなかった、全てはフェリオだけの罪だと。
散々嫌な事をされたけど、エンディングを迎える前に悪役宰相のフェリオから謝罪と共に語られた過去は、あまりにも可哀想で少し同情してしまった。
今のフェリオの絶望的な顔が、ゲームの断罪時に父親に見捨てられた姿と重なる。
「大丈夫?」
フェリオは私の言葉を拒絶するように目を伏せた。
「・・・何だよ。僕を見下しにきたんだろ?さっきはレイド・アーガスを出来損ない呼ばわりしてたくせに、本当は僕自身が父親からそう呼ばれていた事をさ。」
「そんなことするわけないでしょ。本当に貴方って捻くれてるのね。」
フェリオは本気でそう思っていたのだろう。私が否定すると、強張っていた顔が少し和らいだ。あんな父親の元で育ってきたら当然の反応なのかもしれない。
「うるさいな。だったら何しにきたんだよ。まさか慰めるつもり?冗談じゃないよ。同情なんてされたくないね。」
「同情とかじゃないけど、貴方の父親はちょっと酷いと思うわ。」
「っ!父さんを悪く言うな!僕が悪いんだ。僕がもっとちゃんとしていたら、父さんだって認めてくれるはずなんだ。」
だんだんと声が小さくなっていく。
"頑張ればいつか自分の存在を認めてくれる"
その事が彼にとっての支えなのね。
「ねぇ、父親だけが全てではないわ。貴方の周りにだって、貴方の事を認めてくれる人が必ずいるはずよ。」
この先どれだけ努力をしても、彼が父親から認められる事はないと知っている。
だからせめて、彼の心の拠り所を他に作ってあげたい。孤独に押しつぶされそうな時、逃げ道があると言う事を彼に知ってほしい。
「・・・・・・。
そんな奴いるわけないよ。それに僕は誰も信じないんだ。隙なんか見せたらすぐに付け入られる。貴族の世界では常識だよ。君達みたいに仲良しごっこをしてる奴らは、すぐにそんな奴らの餌食になるね。」
私の言葉に少しの間黙り込んだが、すぐに憎まれ口を叩かれる。そんなにすぐには考えが変わらないか。
「私はそんな事しないし、餌食になるつもりもないわ。」
「言ってれば良いよ。いずれ僕の言う事が正しかったと分かるはずさ。それじゃあ僕は行くよ。時間が勿体無いからね。」
そう言うとフェリオは歩き出してしまう。
このままでは彼はずっと誰も信じられず孤独に生きていく事になる。
私は彼の背中に向かって叫んだ。
「またお話ししましょう!私はリザベルよ!覚えておいてね!」
「・・・。」
返事はないが、動きが一瞬止まったので多分聞こえているだろう。
私は去っていくフェリオの背中をしばらく見つめ続けていた。
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