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2章
20.
しおりを挟む「ここで何してるのさ。」
振り向くと、鋭い目をした男の子が私を見ていた。灰色の瞳は冷たく、肩まで伸びた銀髪は綺麗に切り揃えられている。歳は私より少し上だろうか。
怒っているように見えるので、ここに入ってはいけなかったのかもしれない。
「あ、私はレイド・アーガスの友人です。彼と待ち合わせをしていて・・・勝手に入ってしまってごめんなさい。」
「レイド?ああ、なるほどね。」
彼は私を上から下までジロリと見た後、人を小馬鹿にしたように笑う。嫌な感じだ。
「あの"出来損ない"の友人だったんだね。どうりでこんな所に迷い込むはずだ。ここは君みたいなのが来るところじゃないよ。早く出て行ってくれる?」
シッシッと私を追い払うような仕草をする。
彼の不躾な態度にも腹が立ったが、それよりも今何て言った?
「誰が出来損ないですって?」
まさかレイドの事を言っているのかと、自分でも驚く程低い声が出た。
相手は一瞬怯んだ様子だったが、それでも尚、言葉を続ける。
「な、何だよ。だってそうだろ?伯爵家の息子のくせに教会に預けられるなんて。跡取りとしての見込みがないから、父親に見捨てられたに決まってる。あんな汚い場所で──」
「馬鹿言わないでっ!ライアン様がレイドを見捨てるなんてありえないわ!レイドの事を何も知らないくせに悪く言わないで!彼は貴方が思っているよりも何倍も凄いんだから!」
相手の言葉を遮り、私は思わず声を張り上げて怒鳴ってしまう。
レイドは辛い過去がありながらも、それを乗り越えてきた。レイドの今までの頑張りを知っているからこそ彼を侮辱する発言は許せない。
誰かに向かってこんなに怒ったのは初めてで、ハァハァと肩で息をしながら相手を睨みつける。
「う・・・。ぼ、僕だけじゃないぞ!皆言ってるんだからな!」
「リザベル、どうした!何があった!?」
レイドの声だ。
私の怒鳴り声を聞いたらしい彼は、焦った様子でこちらに走ってきている。
しかし私はいまだに怒りが収まらず、前を睨みつけたままだ。
「リザベル、一体何が合ったん・・・あ?お前、どうしてリザベルと一緒にいるんだよ?」
どうやらレイドも相手を知っているらしい。
お互い良い感情を持っていないらしく、みるみる表情を険しくしていく。
「ふん、そこの女が勝手にここに入ってきたんだ。城での事を何も知らないみたいだから、教えてあげたんだよ。」
「てめぇ、リザベルに何を言った!?」
「こんな人相手にしなくて良いわ!もう行きましょう!」
私はレイドを連れてその場から離れる。
本当はまだ言い足りないけど、あのまま居たらまた"出来損ない"発言をされそうだったから。
レイドの傷付く顔は見たくない。
森を抜けて演習場の裏まで戻ると、私はレイドの手を離した。
「あの、勝手に動いてごめんなさい。ちょっと早く着きすぎちゃって。それにしてもお城の中にこんな森があるなんて驚いたわ。」
先程のやりとりについて触れられたくなくて、敢えて話題を変える。しかし、目を合わせようとしない私にレイドが腕を掴んで問い質す。
「なぁ、何であいつと一緒に居たんだ?何か言われたんだろ?悪い、俺がもっと早く行っていれば良かった。」
「大丈夫よ!早くここから出て行けって言われたから、失礼な人だなと思って怒っちゃっただけ。」
私は笑って誤魔化す。さっきの台詞をレイドには聞かせられない。
「・・・そっか。あいつは誰にでもあんな感じだから、今度からは相手にせず逃げろよ。あいつ、自分は侯爵家の息子だから誰も言い返せないと思ってんだよ。」
──チリッ──
レイドの言葉を聞いた瞬間、何かが掠めた。
この感じは覚えがある。
「ねぇ、レイド。さっきの人の名前を聞いても良い?」
頭の中がざわざわと騒ぎ出す。
「何だよ、気になんのか?あいつは
───へぇ。君が例の異世界人か。どうりでみすぼらしい感じがするはずだよ。リザベル王妃が生きていたら、君みたいなのは即刻国を追い出されていただろうね───
フェリオ・シルバー。この国の宰相の息子だよ。」
ああ、やっぱり。
ゲームの悪役宰相の名前だわ。
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