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1章
16.
しおりを挟む「お嬢様、どうされましたか?何だか顔色が優れないようですが。」
教会に向かう馬車の中、いつもと様子の違う私を心配してリンナが声をかけてくれる。
「いいえ、大丈夫よ。ありがとう。」
今日何度目か分からない溜息をつきながら、私は黙って外を眺める。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「レガス兄ちゃん、行っちゃヤダよ!」
「まだここに居てくれよー!」
「お前ら我儘言うな!レガスが困るだろ!」
「ぐすっ・・・だって・・・。」
教会に着くと、すでにレガスとの別れを嘆く声があちこちから聞こえてきた。
小さい子達を宥めている子の目にも、薄らと涙の膜が張っている。
レガスは本当に愛されているわね。
まぁ、そんな私もやっぱり寂しいんだけど。
「お、リザベル、やっと来たな。」
子ども達に囲まれていたレガスが、私に気付いて駆け寄ってきた。
「え?時間通りのはずだけど・・・?」
そう言って時計を見ると、レガスが首を振る。
「時間は合ってる。リザベルに話したい事があってさ。」
何故かレガスの顔が近付いてくる。そして
「──2人で抜け出すぞ──」
急に耳元で囁かれ、思わずビクッとしてしまう。
そういうの慣れてないからやめて・・・!
レガスに呼び出されたのは、今は使われていない礼拝堂だった。ここに来る人はまずいない。
「どこから話せば良いのか分かんねーけど・・・とりあえず俺の本当の名前はレガスじゃないんだ。」
そう切り出してからは、ポツリポツリと自分の過去を語り出した。
本名はレイド・アーガス。代々城に仕える騎士の家系で、父親は騎士隊長のライアン・アーガス伯爵である事。以前は家族と城で暮らしていたけど、5年前に母親が亡くなった事がきっかけでこの教会に預けられた事。その時に名前を偽り、レガスになった事。
今の国王とライアン様は幼馴染みらしく、その縁もあってレガスの母親がセリオス王子の乳母をしていたらしい。
だから2人はあんなに仲が良さそうだったのね。
「本当は誰にも言うつもりはなかったんだけど、リザベルには話しておきたくてさ。」
「そう・・・話してくれてありがとう。ずっと頑張ってきたのね、レガスは。」
「・・・っ!」
私に気を遣わせない為だろう。敢えて感情を込めずに淡々と話していたけど、本当は辛かった筈だ。8歳で母親を亡くし、直後に父親とも離れて暮らすなんて、その当時のレガスの心情を思うだけで胸が張り裂けそうになり、思わず顔が歪む。
「リザベルは優しいな。俺の母さんも、いつも人の気持ちに寄り添っていた。貴族も平民も関係なく接していた。でも、優しすぎたから・・・。」
「レガス?」
「いや、何でもない。リザベルと出会えて良かった。お前はそのままでいてくれよ。何かあれば俺を頼れ。どこにいたって必ず助けに行ってやる。」
レガスがあまりにも辛そうに笑うから、私は見ていられなくなる。
「おーーい!レガス兄ちゃーん!リズ姉ちゃーーん!」
「もうすぐお別れ会始まるよー!」
いつまでも戻らない私達を、子ども達が探しに来た。
「悪い、今行く!──ほら、戻ろうぜ。」
そう言って私を見たレガスは、もういつもの顔に戻っていた。
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