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1章
12.
しおりを挟む「待たせて悪かったね。思いのほか話が長引いてしまった。ライアン、娘のリザベルだ。可愛いだろう?リザベル、こちらは騎士隊長のライアンだよ。」
ライアンと呼ばれた目の前の男性は、髪と同じ真っ赤な瞳で私を見下ろす。騎士隊長と言うだけあって、威圧感が物凄い。鍛えられた体は、鎧の上からでも分かる程だ。
「初めまして、ライアン様。リザベル・フォリスと申します。いつも父がお世話になっております。」
この日の為に1ヶ月特訓した完璧なお辞儀を披露する。今度は失敗しなくて良かった。
「ライアン・アーガスだ。よろしく。随分としっかりしているじゃないか。俺の息子にも見習わせたいよ。あいつはまるで礼儀がなってないからな。」
「そうだろう?うちの娘は可愛いだけじゃないんだよ。」
そう言って笑い合う父様達を見ながら、ふとある言葉が引っかかり呟く。
「アーガスって・・・」
「父さん!?」
うん、やっぱりそうよね。
レガスが両手に山盛りのケーキのお皿を持って走ってきた。その姿が可愛くて、思わず笑ってしまいそうになる。
「おお、レイドか。ん?そのケーキは?甘いのは苦手じゃなかったか?」
「・・・俺のじゃねーよ。」
そう言ってレガスが私をチラリと見る。
ちょっ、私そんなに食べないわよ!?
「何だ、2人は知り合いだったのか・・・。ほぅ、そーかそーか。邪魔して悪かったな。父さん達はまだ向こうで用事があるから、後は2人で楽しむといい。な?ニコラス。」
何故か嬉しそうに笑うライアン様が、父様の名前を呼んで腕を掴む。
「は?用事はもう終わ・・・おいライアン!引っ張るな!どこへ行く気だ!?」
体格の良いライアン様に敵うはずもなく、ずるずると連れられて行く。いつもは落ち着いている父様の焦った顔を見るのは初めてだ。それだけ2人は親しい間柄なのだなと微笑ましく見送る。
「これだけあれば足りるだろ?」
少し顔の赤いレガスがお皿をテーブルに置く。やっぱりこの年頃の男の子って、親といる所を友達に見られると恥ずかしいのかしら?
「ケーキを持って来てくれてありがとう。そういえば、甘い物が苦手だったのね?どうりでずっと紅茶しか飲まないと思ったわ。言ってくれれば良かったのに。」
「いや、食えないわけじゃないんだ。ちょっと苦手ってだけで・・・」
「だったらいつも持っていくお菓子は迷惑だったかしら?それならー・・・」
「違っ!・・・リザベルのは食えるんだよ。何でか分かんねーけど。」
「そうなの?だったら、遠慮なく持ってくわよ?」
「ああ、そうしてくれ。
──あのさ、リザベル」
レガスが少し溜めた後、意を決したように話す。
「俺、来週で施設を出るんだ。もっと早く言うつもりだったんだけど、お前ずっと施設に来ないから言いそびれて・・・だから、リザベルと勉強会で会うのも次で最後になる。」
「え・・・」
レガスの言葉に動揺して、思わず紅茶を溢しそうになる。
「施設の決まりなんだよ。13歳の年に出るって。」
分かっていた事だけど、急すぎて言葉が出てこない。
固まる私に、永遠に会えなくなるわけじゃないとレガスが困ったように笑う。
そうよねと呟いて、その後は黙々と食べ続けた。
さっきまで美味しかったはずのケーキが、何だか味気なかった。
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