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1章
8.リンナ
しおりを挟む私の名前はリンナ。
フォリス公爵家に仕えている。
元々はモーリス子爵家の次女だったが、勘当されてただのリンナになった。
男尊主義の実家では常に弟が優遇され、両親にとって私はいらない子だった。
殆ど放置されていたので、6つ上の姉が何かと私の面倒を見てくれた。姉はあの両親の子どもとは思えないほど、本当に心の美しい人だった。
そんな姉が嫁いだのは、私が12歳の時だ。
嫁ぎ先は王室とも繋がりのある伯爵家だったので、両親が大喜びしていたのを覚えている。
それに引き換え、昔から無口で無愛想だった私は適齢期になってもどこからも声が掛からず、焦った両親が方々に婚約の打診をしたらしいが、全て断られた。
そうして婚期を逃した私は、用無しだのお前に使う金はないだの散々罵られて家を追い出された。
没落寸前の貧乏貴族のくせにプライドの高い両親は、娘を位の高い貴族との繋がりを作るパイプにしか見てなかった。
ほぼ身一つで追い出され、頼れる友人もおらず、どうしようかと当ても無く夜の街を歩いている所をフォリス公爵に拾われた。
実家では使用人を最小限しか雇わず、それも両親と弟にしか付かないので、大抵のことは自分でしていた。そのお陰で侍女としての仕事は難なくこなす事ができた。
家にいた時と同じ事をしてお給料がもらえる。部屋だって与えられたし、食事も信じられないほど美味しい。実家にいた頃と比べるまでもなく、使用人の今の方が恵まれていると断言できる。
ただ1つ問題があった。
公爵家のお嬢様、リザベル様の存在だ。
彼女はとにかく我儘で、気に入らない事があるとすぐに癇癪を起こした。旦那様は多忙でほとんど屋敷におらず、元々体が弱かった奥様は懐妊してすぐに体調を崩され、1日中ベッドで過ごされていた。
お嬢様を止められる者がいるはずもなく、皆次第にお嬢様を避けるようになった。
私はお給料さえ貰えれば構わないと初めのうちは気にせず業務をこなしていたが、次第に悪化する癇癪に嫌気がさし、屋敷を去ろうかと思い始めていた。
元々ある程度お金が貯まったら出て行くつもりだった。昔から物作りが趣味だったので、いつか自分の店を持ちたいと考えていたからだ。
そんな事を考えていた矢先、突然お嬢様が変わられた。弟のケイト様がお産まれになってからだ。
甲斐甲斐しくケイト様のお世話をし、使用人達への態度も改まった。
まるで別人のように。
突然の変わりように戸惑いつつそんな変化にも慣れてきた頃、お嬢様の専属侍女にならないかと旦那様から言われた。お嬢様の希望らしい。
以前の性格の時に言われていたら、その場で断りの返事をして辞職していただろう。
ただ、今のお嬢様だったら・・・
「今日も1日お疲れ様、リンナ。明日もよろしくね。」
ふわりと花が綻ぶように笑うお嬢様を思い出して、自然と口元が緩む。
「私でよろしければ、謹んでお受けいたします。」
何より、こんな私の事を必要としてくれるのであれば。
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