6 / 35
1章
6.レイド・アーガス
しおりを挟む「いいか、レイド。今日からお前はレガスとしてここで過ごすんだ。しばらく会えなくなるが・・・」
「嫌だ!俺は今まで通り父さんと城で暮らしたい!教会になんて行きたくない!」
「駄目だ。俺が迎えに来るまで、城に帰ることは許さない。」
「何で突然そんな事っ・・・。母さんが死んで、父さんまで俺の前から居なくなるのかよ。父さんにとって、俺は邪魔な存在なのか?」
「違う!そんな事はあり得ない。ただ、お前を守る為なんだ。分かってくれ。」
「分からねーよ!ちゃんと説明してくれよ!何でっ・・・!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・レガス兄ちゃん、もうすぐここを出て行くって、本当?」
朝食後、共に日課の素振りをしていると、急に手を止めたマートが話しかけてきた。もちろんここには剣など無いので、自分で作った木刀で、だ。
「何だ、もう知ってるのか。誰かに聞いたのか?」
「ロブが、昨日シスターとレガス兄ちゃんが話してるのを聞いたって・・・本当なの?」
「そっか・・・うん、本当だ。マートは、施設の決まりを知ってるだろ?俺は今年で13歳だから、もうここを出ないといけないんだ。」
「そんな・・・。ボク、もっとレガス兄ちゃんから色々教わりたかったのに。剣だって、まだ1度も勝ててないのに・・・。」
今日は朝からやけに沈んでいるなと思えば、俺と離れる事を寂しがってくれているらしい。
唇を噛んで必死に涙を堪える姿に、それだけ自分の事を慕ってくれているのだと心が温かくなる。
マートがこの施設にやってきたのは、丁度去年の今頃だった。両親を事故で亡くし、親戚中をたらい回しにされた後、この施設にやって来た。
よほど酷い扱いを受けていたのか、施設に来てすぐの頃は誰にも心を開かず、1日中部屋の隅で膝を抱えてうずくまっていた。
その姿が昔の自分と重なり、気付けば声をかけていた。
「おい、いつまでそうしているつもりだ?ここではお前より小さい奴らも皆仕事して生活しているんだ。こんな所でウジウジ泣いてたって誰も助けてくれないぞ。」
俺はあえて突き放した言い方をする。
「うう、うるさいっ!す、好きでこんな所に来たわけじゃない!お前にボクの何が分かるんだよ!」
初めて聞いたマートの声は、震えているくせにそれを悟られまいと精一杯強がっていた。
涙で濡れた目は真っ赤で、グショグショの顔で俺を睨みつけている。
ああ、昔の俺を見ているみたいだ。
もうこれ以上傷付きたくないと、他人を拒絶することで自分を守っている。
「は。泣き虫が何言ってるんだ。」
「ボクは泣き虫なんかじゃない!」
「へー。じゃあ、俺に剣で勝てたら認めてやるよ。俺はレガス。お前は?」
「・・・・・・マート。剣なんて、使ったことない。」
「何だよ。剣の振り方も知らないのか?仕方ねーな、俺が教えてやるよ。」
その日から毎日、暇さえあれば2人で素振りの稽古をした。
マートは筋が良く、めきめきと上達していった。将来は騎士団に入りたいと、キラキラした目で話す姿は微笑ましかった。
強くなりたい。
もうあんな惨めな思いはしたくないから。
1年で随分と成長した目の前の弟分に、感慨深くなる。
「ったく。相変わらず泣き虫は変わらねーな、マート。そんなんじゃいつまでも認めてやれねーぞ。」
「な、泣いてないっ!」
乱暴にゴシゴシと目を拭う姿に、とうとう吹き出してしまう。
「ぶはっ!そーか、それじゃあ認めてやるよ。そんで俺が居なくなった後は、お前がチビ達を守ってやれ。お前だから任すんだぞ。」
「・・・ぅん。・・・わっ!何するのさ!」
俯いて小さく頷くマートの頭をチビ達にするようにわしゃわしゃと撫でれば、やめてよと怒りながらも、表情から本当に嫌がってるわけじゃないと分かる。
「さ、そろそろホールに行こうぜ。今日は来客があるんだろ。」
「あ、いつもドレスを送ってくれてるお嬢様が来るんだった!どれも高級な生地だから、あれで小物とか他の物に作り直すとバザーで高値で売れるんだよね。貴族はちょっと怖いけど・・・その子はどうかなぁ?確か名前は、リザ・・・」
「さーな。貴族なんてロクなもんじゃねーよ。ほら、行くぞ!」
「あ!待ってよ、レガス兄ちゃん!」
レガスとしてここで過ごせるのも後少し。
俺はまた、あの醜く残酷な世界に戻る。
だけど、もう泣く事しか出来なかった俺じゃない。
11
お気に入りに追加
3,264
あなたにおすすめの小説
モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?
狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?!
悪役令嬢だったらどうしよう〜!!
……あっ、ただのモブですか。
いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。
じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら
乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?
悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!
飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます!
※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。
※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
BL世界の悪役令嬢だなんてごめんです!
なな
恋愛
ある日、弟が生まれたことによって
ここが昔読んだBL小説だということに気づいた候爵令嬢であるロゼッタ。なんと弟は攻略対象達から溺愛される主人公で自分は弟をいじめる悪役令嬢!!!
そっとしておくからどうか、どうかっ!断罪だけはやめてください…!
シリアス&若干コメディです!
R15は保険です。
モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。
霜月零
恋愛
私は、ある日思い出した。
ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。
「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」
その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。
思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。
だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!
略奪愛ダメ絶対。
そんなことをしたら国が滅ぶのよ。
バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。
悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。
※他サイト様にも掲載中です。
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
この国の王族に嫁ぐのは断固拒否します
鍋
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢?
そんなの分からないけど、こんな性事情は受け入れられません。
ヒロインに王子様は譲ります。
私は好きな人を見つけます。
一章 17話完結 毎日12時に更新します。
二章 7話完結 毎日12時に更新します。
どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました
小倉みち
恋愛
7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。
前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。
唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。
そして――。
この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。
この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。
しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。
それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。
しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。
レティシアは考えた。
どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。
――ということは。
これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。
私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる