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1章
4.
しおりを挟む私は今、全速力で走っている。
後ろを振り返るとまだ多少距離はあるものの、相手の目は私を捉えていて、確実にターゲットにされているのが分かる。
「はぁっ・・・前世では・・・学校のマラソンで1位になったこともあるのに・・・けほっ・・・こんな所で捕まるわけには・・・。」
過去の栄光はどこへやら、すでに体力の限界を迎えつつある私が、なぜこんなことになっているかと言うと。
ーー数時間前ーー
「皆さん、今日はフォリス公爵家のリザベル様が来てくださいました。彼女がいつもドレスを贈ってくださるのですよ。」
「初めまして、リザベル・フォリスと申します。リザベルでもリズでも、好きなように呼んでください。今日は、1日よろしくお願いします。仲良くしてくださいね。」
シスターから紹介された私は、なるべく威圧的にならないように柔らかい笑みを浮かべて挨拶をする。
「リザベル・・・様?」
「バカっ!お前、気安く話しかけるなよ。お貴族様だぞ!」
「よるのめがみさまみたい。きれーだねぇ。」
夜の女神様か・・・。
この漆黒の髪が夜を連想させたのね。
子ども達からヒソヒソと話し声が聞こえてくるが、私が見つめると目を逸らされてしまう。
いきなりやってきた貴族の娘に、どう接したら良いのか分からないのだろう。
怒らせたらいけないと思っているのか、それとも貴族なんて面倒だと関わりたくないのか、俯いている子もいる。
このままではいけない。
子ども達と仲良くなるには・・・。
「あの、今から私と一緒に遊びませんか?皆さんの好きな遊びを教えてください。」
そうしてこの追いかけっこである。
足には自信があったはずだが、子ども達は思った以上に体力があり、普段から走り回っているのか足も速い。私が鬼に狙われてかれこれ15分近く走り続けているのに、鬼の子は平然としている。
悔しいがそろそろ足的にも肺的にも限界が近そうなので、鬼の死角になった瞬間に素早く木の後ろに隠れて息を整える。
しばらく隠れていたら、鬼は諦めて別の子をターゲットにしたようだ。
ほっと息を吐くと、背後から気配がして振り向く。
「あんた、全然お嬢様っぽくないんだな。」
声をかけてきたのは、この施設の最年長のレガスだ。
レガスは他の子とは違うオーラを感じる。なんて言うかうまく言えないけど・・・なんか違う。
キラキラしてるというか、顔も整ってるし、気品がある。今日見て感じたことだけど、多分皆からとても慕われていると思う。
そして多分私は・・・警戒されている?
「よく言われるの。お転婆なお嬢様は嫌い?」
「いや、お高くとまってるよりは好感が持てるかな。今まで物を送ってくれた令嬢は誰もいなかった。ましてや、施設にやってくる貴族なんて、あんただけだよ。だからこそ、何故ここに?」
笑顔で問いかけているが、目の奥は私の本心を探ろうとしている。
「私のドレスを着てくれる子達を見にきたの。大切に着てくれるかな、とか気になるじゃない?それと」
「それと?」
食い気味に聞いてくるレガスに、ニッコリと言葉を返す。
「続きはお互い捕まらなかったらね!」
「・・・は?」
ポカンと呆けているレガスを横目に、私は全速力で走る。
レガスが気付いて後ろを振り向いた時には、すでに鬼が背中にタッチしていた。
お昼になり、皆は食堂へ、私は聖職者達の使う控室で持参したサンドイッチを食べる。
本当は施設の子達の食事情も知りたかったのだけど、公爵家の令嬢に施設の物を食べさせるわけにはいかないと、教会側がNGを出した。
まぁ、うちの父様も母様も絶対に反対しただろうけど。
一人で食事を終えて、礼拝堂へ向かう。昼食後はここで祈りを捧げるのだそうだ。
もうすでに皆来ていて、私が最後だった。
私に気付いた子ども達が声をかけてくれる。
「リズ姉ちゃん!こっち!」
「私の隣に座ってー!」
先程の追いかけっこのお陰か、皆とだいぶ親しくなれたと思う。
お祈りは30分程で終わり、その後は自由時間だ。本来は午前中に自由時間があり、午後のこの時間は各々得意分野で小物を作ったりと"お仕事"をするらしいのだが、私が来たことでスケジュールが変わったらしい。
週に1度の休日に、皆で作った小物をバザーで出してお金を稼いでいるのだそうだ。今日の分のお仕事が無くなればそれだけ稼ぎが減るということで、何だか申し訳ない気持ちになった。
ただ、その分違う財産を吸収していってほしいと思う。
私はホールに皆を集めて、カバンから取り出した物を広げた。
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