好きだと言いたかった

毛蟹葵葉

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 なぜかわらないが、イライラした。
 その理由は私に答えを求めてくるくせに、手塚は何も言わないからだ。

「だから、どう思ってるってどういうことなの?」

 苛立ち混じりに質問を返すと、手塚はため息を吐いた。

「悪い。卑怯だった」

 手塚も、何も言わずに答えだけ求めてくる事を悪いと思ったようだ。

「あのさ」
 
 不意に手を握られた。
 驚いて手塚の顔を見ると、熱く濡れた目が私を見ていた。

「俺、杏奈の事が好きだよ」

 手塚の視線がまるで糸のように私の体に絡みつき、身動きが取れなくなっていくような気がした。
 
「……」

 何も言えず黙りこんでいると、手塚は見かねて口を開いた。
 
「何か言ってくれよ」

 手塚はどこか傷ついた顔をしているように見えた。
 私は、どう答えたらいいのかわからなかった。
 手塚のことは嫌いではない。好きだと思う。けれど、それは恋愛感情からきている物なのか、ただ、友人として好きなのか判別がつかなかった。

 けれど、手塚への思いがたとえ恋愛感情だったとして、確実に破綻するものを選ぶことはできない。
 怖いのだ。たくさん好きになってしまったら、離れる時が辛くなるから。
 
「私は……、ごめん。手塚の事そんなふうに見れない」

 ようやく出た断りの言葉に、手塚は目を見開いてかなりショックを受けていた。
 
「嘘だ」

 手塚はなぜ嘘だと思ったのか。
 わからない。
 私たちの関係にそういった甘さを孕んだものなんてなかったはずだ。
 
「嘘じゃない。本当に友達としてしか見ることができない」
「……じゃあ、俺の勘違いだったんだな」

 自嘲気味に笑う手塚に私はなんと声をかけたらいいのか。
 いや、何も言わないのが正解なのだろう。

「悪かったな。戸惑うようなこと言って、もう会わないから早く忘れろよ」

 手塚はそう言って、寂しげに微笑んだ。
 私は彼の屈託のない笑顔を見るのが好きだった。けれど、もうそれは二度と見ることはできない気がした。
 
「うん」

 お互いにポツリポツリと話をしてそのまま解散になった。
 タクシーに乗り込む手塚を見送りながら、やっと終わった。と、どこか私は安堵していた。

 ……そして、私は手塚と二度と会うことはなかった。

 その日の夜。手塚は事故に巻き込まれて帰らぬ人となってしまった。
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