1 / 5
1
しおりを挟む
1
垂れ目を隠す黒いアイラインとハイヒールさえあれば、私は誰にも負けないと思っていた。
実際のところは、虚栄心の塊の私は我の強さを押し通すことが本当の強さだと勘違いしていただけだったのだ。
本当に大切なものはなんなのか、私にはわからなかった。
手塚友雪と初めて出会ったのは会社でだ。
彼とは同期で同じ部署で同い年で、何かとお互いに張り合っていた。
いや、張り合っている。というのは少し違う。
私が手塚のことが羨ましくてつい嫌な態度を取ってしまうから、向こうも同じような態度になってしまうのだ。
お互いに少しだけギスギスとしているが、私は彼のことを友達だと思っているし、おそらく彼も同じように思っていると感じていた。
それが壊れることなんてないと、私は思っていなかった。
「なあ、俺のことどう思っている?」
いつものように、些細なことで言い合いになりその流れで飲みに行った末の質問に私は思わず瞬きした。
今まで一度たりとも考えたことなんてなかった。
手塚のことは、ライバルでもあり……大切な友人だと思っている。
それ以上でもそれ以下でもなく、どちらかに恋人ができたら距離を置くことになるだろうけれど。
あっさりとした関係だと思っていた。
「えっと、それってどういう意味?」
質問を質問で返すのは気が引けるが、手塚の意図を理解できなければ答えを返しようがない。
手塚は私の質問返しに、不機嫌そうな顔をした。
「……そのままの意味だけど」
「うん……?」
そのままの意味とはどういう意味なのだろうか、友達だと思っていると言えばいいのか。
けれど、本能的にそう返してはいけないような気がした。
「ここまでくると本当に、杏奈」
ため息混じりにちゃっかりと名前を呼ばれて、今度は私が不愉快になった。
下の名前を呼ぶのは友達としての線を超えている。
「名前で呼ぶのやめてくれる?気持ち悪い」
ただ、それをはっきりと言えないのは、手塚がまとう空気のせいだろうか。
変に意識してしまう。と、言ったところで彼は茶化すことはしないけれど。
「うわ、本当に可愛げがない」
「そんなものあって何が面白いの?」
さりげなく話を逸らすと、手塚もこれ以上は何かを言うのをやめてくれた。
また、いつも通りに戻る。そう思っていた。
「……大概だよな。気がついてない?」
手塚の射抜くような目に私は思わず息を呑んだ。
「……っ」
「俺、杏奈の事」
これは、絶対に続きを聞いてはいけない!
続きの言葉がたとえ冗談であっても、事実であっても自分にとっては不都合になるものだと瞬時に私は判断する。
いや、手塚の性格上こういった冗談を言うはずがないのだけれど……。
「ストップ!今、私凄く酔っ払ったの!気持ち悪い!」
私は必死になって話を逸らした。
とりあえず今この場をどうにかして切り抜けたら、なんとかなると思っていたから。
「うん、わかったよ」
手塚は、苦笑いを浮かべてそれ以上は何も言わなかった。
その場しのぎだけれど、何とか話を切り上げることができて、とりあえず私は胸を撫で下ろした。
垂れ目を隠す黒いアイラインとハイヒールさえあれば、私は誰にも負けないと思っていた。
実際のところは、虚栄心の塊の私は我の強さを押し通すことが本当の強さだと勘違いしていただけだったのだ。
本当に大切なものはなんなのか、私にはわからなかった。
手塚友雪と初めて出会ったのは会社でだ。
彼とは同期で同じ部署で同い年で、何かとお互いに張り合っていた。
いや、張り合っている。というのは少し違う。
私が手塚のことが羨ましくてつい嫌な態度を取ってしまうから、向こうも同じような態度になってしまうのだ。
お互いに少しだけギスギスとしているが、私は彼のことを友達だと思っているし、おそらく彼も同じように思っていると感じていた。
それが壊れることなんてないと、私は思っていなかった。
「なあ、俺のことどう思っている?」
いつものように、些細なことで言い合いになりその流れで飲みに行った末の質問に私は思わず瞬きした。
今まで一度たりとも考えたことなんてなかった。
手塚のことは、ライバルでもあり……大切な友人だと思っている。
それ以上でもそれ以下でもなく、どちらかに恋人ができたら距離を置くことになるだろうけれど。
あっさりとした関係だと思っていた。
「えっと、それってどういう意味?」
質問を質問で返すのは気が引けるが、手塚の意図を理解できなければ答えを返しようがない。
手塚は私の質問返しに、不機嫌そうな顔をした。
「……そのままの意味だけど」
「うん……?」
そのままの意味とはどういう意味なのだろうか、友達だと思っていると言えばいいのか。
けれど、本能的にそう返してはいけないような気がした。
「ここまでくると本当に、杏奈」
ため息混じりにちゃっかりと名前を呼ばれて、今度は私が不愉快になった。
下の名前を呼ぶのは友達としての線を超えている。
「名前で呼ぶのやめてくれる?気持ち悪い」
ただ、それをはっきりと言えないのは、手塚がまとう空気のせいだろうか。
変に意識してしまう。と、言ったところで彼は茶化すことはしないけれど。
「うわ、本当に可愛げがない」
「そんなものあって何が面白いの?」
さりげなく話を逸らすと、手塚もこれ以上は何かを言うのをやめてくれた。
また、いつも通りに戻る。そう思っていた。
「……大概だよな。気がついてない?」
手塚の射抜くような目に私は思わず息を呑んだ。
「……っ」
「俺、杏奈の事」
これは、絶対に続きを聞いてはいけない!
続きの言葉がたとえ冗談であっても、事実であっても自分にとっては不都合になるものだと瞬時に私は判断する。
いや、手塚の性格上こういった冗談を言うはずがないのだけれど……。
「ストップ!今、私凄く酔っ払ったの!気持ち悪い!」
私は必死になって話を逸らした。
とりあえず今この場をどうにかして切り抜けたら、なんとかなると思っていたから。
「うん、わかったよ」
手塚は、苦笑いを浮かべてそれ以上は何も言わなかった。
その場しのぎだけれど、何とか話を切り上げることができて、とりあえず私は胸を撫で下ろした。
103
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。


【完結】やってしまいましたわね、あの方たち
玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。
蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。
王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。


悪役令嬢を彼の側から見た話
下菊みこと
恋愛
本来悪役令嬢である彼女を溺愛しまくる彼のお話。
普段穏やかだが敵に回すと面倒くさいエリート男子による、溺愛甘々な御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる