好きだと言いたかった

毛蟹葵葉

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 垂れ目を隠す黒いアイラインとハイヒールさえあれば、私は誰にも負けないと思っていた。
 実際のところは、虚栄心の塊の私は我の強さを押し通すことが本当の強さだと勘違いしていただけだったのだ。

 本当に大切なものはなんなのか、私にはわからなかった。

 手塚友雪と初めて出会ったのは会社でだ。

 彼とは同期で同じ部署で同い年で、何かとお互いに張り合っていた。
 いや、張り合っている。というのは少し違う。

 私が手塚のことが羨ましくてつい嫌な態度を取ってしまうから、向こうも同じような態度になってしまうのだ。

 お互いに少しだけギスギスとしているが、私は彼のことを友達だと思っているし、おそらく彼も同じように思っていると感じていた。

 それが壊れることなんてないと、私は思っていなかった。

「なあ、俺のことどう思っている?」

 いつものように、些細なことで言い合いになりその流れで飲みに行った末の質問に私は思わず瞬きした。
 今まで一度たりとも考えたことなんてなかった。
 手塚のことは、ライバルでもあり……大切な友人だと思っている。
 それ以上でもそれ以下でもなく、どちらかに恋人ができたら距離を置くことになるだろうけれど。
 あっさりとした関係だと思っていた。

「えっと、それってどういう意味?」

 質問を質問で返すのは気が引けるが、手塚の意図を理解できなければ答えを返しようがない。
 手塚は私の質問返しに、不機嫌そうな顔をした。
 
「……そのままの意味だけど」
「うん……?」

 そのままの意味とはどういう意味なのだろうか、友達だと思っていると言えばいいのか。
 けれど、本能的にそう返してはいけないような気がした。
 
「ここまでくると本当に、杏奈」

 ため息混じりにちゃっかりと名前を呼ばれて、今度は私が不愉快になった。
 下の名前を呼ぶのは友達としての線を超えている。
 
「名前で呼ぶのやめてくれる?気持ち悪い」

 ただ、それをはっきりと言えないのは、手塚がまとう空気のせいだろうか。
 変に意識してしまう。と、言ったところで彼は茶化すことはしないけれど。
 
「うわ、本当に可愛げがない」
「そんなものあって何が面白いの?」

 さりげなく話を逸らすと、手塚もこれ以上は何かを言うのをやめてくれた。
 また、いつも通りに戻る。そう思っていた。
 
「……大概だよな。気がついてない?」

 手塚の射抜くような目に私は思わず息を呑んだ。

「……っ」

「俺、杏奈の事」

 これは、絶対に続きを聞いてはいけない!
 続きの言葉がたとえ冗談であっても、事実であっても自分にとっては不都合になるものだと瞬時に私は判断する。
 いや、手塚の性格上こういった冗談を言うはずがないのだけれど……。

「ストップ!今、私凄く酔っ払ったの!気持ち悪い!」

 私は必死になって話を逸らした。
 とりあえず今この場をどうにかして切り抜けたら、なんとかなると思っていたから。

「うん、わかったよ」

 手塚は、苦笑いを浮かべてそれ以上は何も言わなかった。
 その場しのぎだけれど、何とか話を切り上げることができて、とりあえず私は胸を撫で下ろした。
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