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 私が自分自身に違和感を持ったのは、物心がつく前からだった。
 誰か。の記憶が混ざり合っているようなそんな感覚が強くあった。
 あまり泣くこともなく、我慢はできる方だった。子供っぽさがあまりない子供だった。
 明確に、何かがおかしいと気がついたのは、自分の顔をしげしげと見た時だった。

 真っ黒な小さな目、黒い髪、整っているけれど、どこか愛嬌のある顔立ち。
 ……なんだろう。コウモリみたい。

 自分の顔がコウモリみたいだと思った瞬間に前世の記憶が蘇った。

 私は、アラサーの社畜で疲れた心のオアシスでもあるスマホゲームにどハマりしていた。
 買い上げのゲームで課金要素の全くない、シナリオ自体を楽しむものだった。
 内容もテンプレートで、田舎の領地でのびのびと育った令嬢が上位貴族に見初められるといったものだ。

 所謂「オモシレー女」なヒロインが、恋に友情に勤しむといった内容だった。

 うん、勉強しろ。
 
 田舎からやってくるなら、領地の繁栄のために他の貴族とコネクションを作るとかならまだわかるよ。
 なぜ、恋愛に勤しむのかと、やること他にあるだろう。と、心の中でツッコミを入れてしまった事を覚えている。
 それだけ私が年をとったのか、枯れてしまったのかわからない。
 好きなシナリオレーターさんだったから期待して買ったが、色々と未消化で気になる事だらけであまり楽しめなかった。

 でも、たまにあるじゃない?

 いつも、名作を書く作家さんが迷作を書くだって、それを否定するつもりはないけれど。

「でも、だからってコウモリ令嬢に転生しなくてもいいでしょうぅ!?」

 私は大好きなシナリオ作家さんが生み出した、迷作の中に登場するコウモリ令嬢に転生してしまったのだ。

 コウモリ令嬢とは、私の大好きなシナリオ作家さんが書いたゲームに登場する微妙な立ち位置のキャラクターだ。

 伯爵家の令嬢で、ヘスティア・ミシェルという。
 黒髪黒目で比較的整った顔をしている。ゲームのイメージ動画にもヒロインに苦言を呈する形で登場する。
 しかし、悪役令嬢というにも、モブ令嬢というにも微妙な立ち位置をしているのだ。それなのに微妙なざまぁまである。
 というのも、どのルートにも婚約者はヒロインに懸想するのだが、ヘスティアはそれに対して虐めをすることはない。
 正論でヒロインに注意することはあるが、それだけで、所謂ざまぁの時ですら彼女は断罪されない。
 なんなら、虐めの証言をしてくれるお助けキャラでもある。
 最終的に婚約者と婚姻することになる。

 だが、考えてみて欲しい。

 婚約者は、ヒロインに懸想しているのだ。その状況で婚姻して果たして幸せになれるのだろうか。
 
 その上で客観的に見てみよう。
 
 高位貴族の令嬢の大半が、断罪されて修道院送りになっている。
 ヘスティアは、ヒロインに苦言を呈する事を何度かしていて、見方によっては虐めをしているように取れなくもない。
 
 結果的にヘスティアは、うまく乗り切っている。

 それを何も知らない人たちはどう見るのだろう。

 虐めをしておいて部が悪くなったらヒロインの味方をしたと見えるのかもしれない。

 婚姻後、彼女には「コウモリ」というあだ名をつけられて針の筵のような生活が待っていた。

 つまり、彼女もざまぁの対象であったのだ。

 まともな事を言って、まともな感性の持ち主だからこそ、虐めの証言をしたというのにだ。
 私からしてみれば、ヘスティアは善良な人間に見える。

 修道院送りにされるか、針の筵のような生活を一生続けるのか、正直修道院の方がマシではないのかと思う。

 夫は、相手のいる女性に懸想している。最悪だろ。間違いなく夫婦生活なんてない。
 事あるごとに嫌味を言われるような生活に何の楽しみがあるのだろうか。

 長くなったけれど、導入はここまでにしておこう。
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